世界のワイン産地を巡る旅、第6回の舞台はフランス南東部のローヌ地方。アルプス氷河を水源とするローヌ川の両岸に広がり、古くからワインの銘醸地として知られたエリアです。食材が豊富なことから伝統的な料理が多く、ワインを片手に美食を楽しむのがローヌ地方の旅の醍醐味! どんな料理、そしてワインが楽しめるのか、古都リヨンを中心に歩いてみましょう。
text WINE OPENER編集部
フランスきっての美食の街、リヨン
フランス・ローヌ地方は、ローマ時代に交通の要所として栄えたヴィエンヌから、織物の街で知られるニームまで、南北約250kmのローヌ川流域に広がるエリアです。中心都市のリヨンはパリに次ぐフランス第2の都市で、ローマ時代は各地からの商人で賑わう交易地でした。今でも中世の香りが漂う古い街並みが残り、歴史地区は世界遺産に登録されています。 交易により上質な食材に恵まれたリヨンには腕利きの料理人が集まり、いつしかフランス随一の美食の街と称されるようになりました。現代フランス料理界を牽引したポール・ボキューズ氏はリヨン出身で、美食家憧れのポール・ボキューズ本店はリヨン郊外にあります。ポール・ボキューズ以外にも、ミシュランの星付きレストランが多数あり、これもまたリヨンが美食の街といわれるゆえんです。
一方でリヨンの歴史地区を歩くと、石畳の路地にブションと呼ばれる大衆食堂が点在しています。ブションの起源は19世紀頃、上流階級のお抱え料理人として働いていた女性たちが自分の店をもち、シンプルかつボリュームたっぷりの家庭料理を振舞ったのが始まりだとか。 狭い店内にテーブルが並び、赤と白の格子柄のテーブルクロスの上には出来たての料理…。観光客も地元客も肩肘張らずに過ごせるアットホームな雰囲気は、おそらく19世紀から変わっていないのでしょう。
食材を余すことなく使う伝統の家庭料理
ブションで出されるメニューは肉料理がメイン。伝統的に食材を残さず使うので、内臓や皮を使った料理が多いのも特長です。例えば前菜の前にアペリティフとして出されるグラトンは、豚の皮や脂身をラードで揚げたパリパリ食感のおつまみ。旨味たっぷりで、お酒のおともに最適です。また豚の内臓入りの極太ソーセージ、アンドゥイエットは、ブション定番のメイン料理。爽やかなハーブの香りが食欲をそそります。
同じくソーセージを使った料理でも、ソーシソン・ブリオッシュは独創的。ソーシソンという太いソーセージを、ブリオッシュで包んで焼いた前菜です。みっちり詰まったソーシソンと、ふわふわのブリオッシュという異なる食感を楽しめます。
クネルもリヨンを代表する、ブションのメイン料理のひとつ。魚のすり身をオーブンで焼いたグラタンのような料理で、ザリガニからとったクリーミーなソースでいただきます。カワカマスという川魚を使うことが多く、ふわっと焼き上がったすり身と魚介ダシの組み合わせは日本人にも好まれます。 地元の食材を余すことなく使ったブションの郷土料理には、同じく地元で造られたワインを合わせるのがいちばん。ローヌ地方は南フランスを代表するワイン産地であり、どの店にもローヌ産のワインが揃っています。実はローヌ地方は、トップカテゴリーのA.O.C.ワインの生産量がボルドーに次ぐ第2位(※)。 上質なワインの産地なのですが、もちろんカジュアルなワインも多く、ブションではグラスからオーダーできます。
※ 出典 /『受験のプロに教わるソムリエ試験対策講座』(杉山明日香 著、リトルモア 刊)
ローヌ川の両岸に広がるブドウ畑
ローヌ地方のワインの生産地区は北部と南部に分かれ、それぞれ気候や土壌が異なります。主な栽培品種も違うのですが、どちらも赤ワインが多く約75%以上を占めています。また共通して北から南にミストラルという強風が吹き、その影響で湿気が少なく、カビの被害が少ないのも特長です。
北部は日照量が多く乾燥した半大陸性気候。水はけのよい土壌に恵まれ、急斜面の畑で育ったブドウはたっぷりと日光を浴びて成熟します。主要品種は黒ブドウのシラー。色濃く、力強いスパイシーな赤ワインは、エレガントとも表現される上品さが魅力です。
また生産量は少ないですが、白ブドウのヴィオニエやマルサンヌもローヌ地方らしい品種。ヴィオニエはローヌ北部が原産といわれ、アロマティックで濃厚な味わいが魅力です。完熟には十分な日照量が必要とされ、傾斜のあるローヌ北部の地形は最適。フルーツや花の香りを放つ上質な白ワインが造られています。 マルサンヌもローヌ地方の北部が主な産地。ボリュームのある力強い白ワインができ、上質なものは花のニュアンスも。同じく白ブドウのルーサンヌとブレンドで使われることが多いです。
南部は温暖で乾燥した地中海性気候に属します。なだらかな丘陵が続き、粘土石灰岩や玉石などの土壌で、さまざまなブドウが栽培されています。主な栽培品種はグルナッシュ。スペイン原産の黒ブドウですが、ローヌ地方の南部をはじめ、南フランスでも多く栽培されています。ほどよいボディと甘いフルーツの香りが特長で、ほかの黒ブドウとブレンドされることが多い品種です。
ローヌを代表する至高のワイナリー、M. シャプティエ
M.シャプティエは、歴史あるローヌ地方で1808年からワインを造り続けるワイナリー。ローヌ北部で最高峰のA.O.C.であるエルミタージュを拠点とし、200年以上にわたって多様なワインを造ってきました。畑ごとのテロワールを大切にし、ブドウの個性をていねいに表現したワインは、世界的に高い評価を得ています。 また早くから地球、太陽、月の周期をもとにしたビオディナミ農法を取り入れ、サスティナブルなワイン造りを実践していることでも注目されています。 世界で最も影響力のあるパーカーポイントの100点満点を40回以上獲得しており、品質のよさは折り紙つき。とはいえ、高価なワインだけでなく、気軽に楽しめるカジュアルなワインを用意しているのも魅力です。今回はM.シャプティエの数あるワインの中から、ローヌ地方らしい個性的な3本を紹介します。
M.シャプティエ
シャトーヌフ・デュ・パプ ルージュ コレクション・ビオ
参考小売価格:税抜6,300円
シャトーヌフ・デュ・パプは、1936年に初めてA.O.C.に認定されたローヌ南部を代表するアペラシオン(産地)。グルナッシュを主体に、有機認証されたブドウのみを使った赤ワインは、凝縮感のあるボディと熟した果実の香りに、スパイシーな余韻を感じさせる上品な味わいが魅力です。
M.シャプティエ
コンドリュー インヴィターレ
参考小売価格:税抜7,700円
ローヌ原産の品種、ヴィオニエを100%使用したエレガントな白ワイン。南国フルーツを思わせるフルーティーな風味と、白い花の上品な香りが複雑に絡み合います。余韻にはバニラのニュアンスが感じられ、ヴィオニエの個性を存分に楽しませてくれます。
M.シャプティエ
サン・ペレイ ブラン レ タヌール
参考小売価格:税抜3,100円
ローヌ北部のアペラシオン、サン・ペレイのテロワールをていねいに表現した白ワイン。マルサンヌを主体とし、口にふくむとフレッシュ感とともにハチミツや青リンゴなどのアロマが広がります。はつらつとしたミネラル感も備えた奥行きのある味わいです。
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※ワインについては、記事掲載時点での情報です。