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世界のおいしい旅 第3回
ドイツ最古のワイン産地、モーゼル地方の類まれなる白ワインの魅力とは?

その土地ならではの料理とお酒は旅の醍醐味!という皆さまにお届けする“おいしい”旅の話。第3回はドイツの西側に広がるモーゼル地方から。古代ローマ時代より続く歴史あるワインの産地でどのような食文化が育まれているのか、日本ドイツワイン協会連合会 副会長であり、明治13年創業の老舗すき焼店「今朝」の代表取締役でもある藤森 朗さんにうかがいました。

text WINE OPENER編集部

世界のおいしい旅 第3回

一般社団法人日本ドイツワイン協会連合会 副会長
藤森 朗(ふじもりあきら)さん

気候と土壌に恵まれたドイツワイン発祥の地

―まずはモーゼル地方がどういった場所なのかを教えてください。

藤森さん(以下敬称略):ドイツ西部を流れるモーゼル川流域と、その支流のザール川、ルーヴァー川流域のことをモーゼル地方と呼びます。モーゼル川はフランスからルクセンブルクおよびドイツを流れる545kmの広大な川で、ドイツ国内の長さは243km。父なる川と称されるライン川に合流する、ライン川最大の支流でもあります。

世界のおいしい旅 第3回
モーゼル川を挟んでベルンカステルとクルスという村が広がる

―ライン川は流域に観光客に人気の町や古城などが点在していますが、モーゼル川も同じような雰囲気ですか?

藤森:雰囲気はちょっと違いますが、モーゼル川流域にも美しい町が点在し、観光では町巡りを楽しむのが定番です。歴史の古い町が多く、例えば2000年以上前のローマ帝国時代に建設されたトリアーは、2世紀後半に造られた門や大浴場、円形劇場などローマ時代の遺跡が見どころです。またモーゼル川がライン川と合流するコブレンツも、ローマ時代に要塞として栄えた町。旧市街を散策すれば中世の趣が感じられます。

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トリアーのポルタ・ニグラ(黒門)は、2世紀後半に建てられたローマ市壁の門

―モーゼル地方はワインの産地としても有名ですよね?

藤森:この地域はドイツで最も古いワインの産地ですからね。前述のトリアーは紀元前16年に建設されたのですが、同じ頃に古代ローマ人によってブドウの栽培やワインの醸造技術がもたらされたといわれています。

気候や地形もブドウ作りに適しています。モーゼル川は蛇行しているので、南側の斜面にぶどう畑がたくさん造られるのです。しかも勾配率30%以上の急斜面が多く日照量も豊富。昼夜の寒暖差が大きいのも特長です。10月の収穫期は日中20℃を超えても朝晩は10℃以下になる冷涼な気候で、ブドウの生育期間が長くじっくりと成熟を待つことができます。

―渓谷にあるため気温が安定しているんですね。そんな恵まれた畑では、どんなブドウが育てられているのでしょう?

藤森:モーゼル地方は古くから世界有数のリースリングの銘醸地として知られています。中部モーゼル以北は水はけのよいスレート(粘板岩)土壌。石灰質が混ざらない痩せた土壌が、洗練されたミネラリティを引き出します。ブドウ栽培のうち6割をリースリングが占めていますが、ほかにミュラートゥルガウやシュペートブルグンダーなども栽培されています。

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リースリングはドイツで栽培されているブドウの約23%を占める

ユニークなところでは、トリアーより南のオーバーモーゼルでとれるエルプリングという品種があります。これは2000年以上前から栽培されていたとされる土着品種。辛口の白ワインやゼクトという発泡性ワインに使われるので、見かけたら試してみてください。

圧倒的に白ブドウが多いドイツですが、最近はドイツ語でシュペートブルグンダーと呼ばれるピノ・ノワールの栽培面積が増えています。年々品質が向上していて、果実味のある繊細なものが増えている印象です。

―魅力的なモーゼルワインですが、ワイナリー見学はできますか?

藤森:モーゼル川流域にはワイナリーがたくさんあります。個人では訪問が難しいところもありますが、事前に訪問日時と人数を伝えればたいてい受け入れてくれます。見学をさせてもらったら、お礼の意味も込めてワインを数本買っていただけるといいですね。

個人の旅行客が行きやすいところでは、トリアーの町にある「トリアー慈善協会」が有名です。ドイツ最古のワインセラーをもつ醸造所で、地下の歴史的セラーは団体客用ですが、荘厳な建物の一角にある売店なら誰でも入れます。

また中流域のベルンカステル-クースのクース村に建つ、聖ニコラウス養老院の敷地内にワイン博物館があり、併設のショップで100種類ほどのワインが試飲できます。この町は秋にワインフェスティバルが開催され、ワインの試飲のほか郷土料理の屋台やパレード、花火で盛り上がります。

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2023年のワインフェスティバルは8月31日~9月4日に開催予定

モーゼルワインを片手に、濃厚ソースのドイツ料理を満喫

―町のレストランやバーでもモーゼルワインが飲めるのでしょうか?

藤森:ドイツというとビールのイメージが強いと思いますが、モーゼルでは何といってもワインです。町中のレストランには、グラスからボトルまでモーゼルワインが豊富に揃っています。グラスでも何種類か飲める店が多いですね。

ドイツ人は伝統的に昼食にシチューなどをしっかり食べ、夕食はパンとハム、チーズなどで済ますことが多いのです。ですから昼は、ワインを飲みながらボリュームたっぷりの料理を食べるという人が多いですよ。もちろん夜もワインは欠かせないのですが(笑)。

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中流域の町コッヘム。テラス席で食事を楽しむ人でにぎやか

―さすがドイツ最古のワインの産地ですね。どんな料理が食べられるのでしょうか?

藤森:歴史ある地域なので、伝統的なドイツ料理が充実しています。ワインの銘醸地だけあって料理のレベルは高いと思います。ドイツ全土で「旬の食材を新鮮なうちに使う」という文化が浸透しているので、食材選びにはこだわります。やはり季節のおすすめ料理を食べるのがいいでしょうね。春はシュパーゲル(白アスパラ)やイチゴ、夏はサクランボや木イチゴ、秋はキノコやカボチャ、冬はシカや野ウサギなどのジビエがよく食べられています。

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白アスパラはドイツの春の風物詩(写真提供/藤森 朗)

定番どころでは、赤ワインやビネガー、スパイスなどに漬けた牛肉をソースで煮込む「ザウアーブラーテン」が有名。軟らかい肉が口の中でほろほろと崩れます。

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酸味のきいたソースが食欲をそそるザウアーブラーテン

また豚肉を薄く伸ばして揚げたカツレツ「シュニッツェル」も国民食といっていいでしょう。シュニッツェルにきのこソースをかけた「イェーガーシュニッツェル」も人気のメニューです。

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イェーガーシュニッツェルのイェーガーは「狩人風」という意味

魚料理は少ないのですが、鱒のムニエルはよく食べられています。バターが香ばしくおいしいですよ。

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シンプルな味付けの鱒のムニエル(写真提供/藤森 朗)

付け合わせはジャガイモが定番。ドイツはジャガイモの種類も料理法も驚くほど豊富なのです。付け合わせとしては、フライドポテトや茹でジャガイモ、マッシュポテトのほか、ジャガイモのニョッキや、クヌーデルというジャガイモ団子など。ジャーマンポテトやグラタンなどのジャガイモ料理もたくさんありますよ。

―いろいろ食べてみたくなったのですが、レストランでは料理をシェアしてもいいのでしょうか?

藤森:もちろんシェアできます。1皿のボリュームがかなり大きいので、2人なら前菜1~2品とメイン1品を分けるくらいがいいでしょう。頼めば取り皿を持ってきてくれます。
ただしドイツでは、グループであっても別々に会計をするのが一般的です。自分が頼んだものは自分で食べるというスタイルなので、会計のときに一緒に支払うのか、別々なのかを聞かれます。

世界のおいしい旅 第3回
眺めのいいテラス席で食事を楽しむのもおすすめ

テーブルごとに担当のスタッフが決まっている、というのも日本とは異なる文化ですね。自分のテーブルの担当でないスタッフに声をかけても対応してくれないので、担当スタッフの顔を覚えておくといいでしょう。

きちんとサービスを受けたら、会計のときに10%くらいのチップを渡すのがマナーです。

小さなレストランが多いので、夜は予約をしておいたほうが安心。ミシュランの星付きレストランからホテルのダイニング、カジュアルな食堂まで選択肢は豊富です。バーもありますが、ドイツのバーは料理がなくお酒だけ飲むのが一般的なので、食事は別の店でとりましょう。どちらにしてもワインはモーゼル産が中心。世界最高峰のリースリングを楽しんでください。

―モーゼルワイン、飲みたくなってきました!本日はありがとうございました。

ヨーロッパ最大級のワイナリーが醸す果実味豊かなワイン

世界のおいしい旅 第3回
急傾斜面にブドウ畑が広がるモーゼル川らしい風景

ドイツを代表するワインの産地、モーゼル地方で1789年に設立されたのがラングート社。今ではモーゼル地方以外にも畑をもち、ヨーロッパ有数のワイン生産者として知られています。今回はWINE OPENER編集部がドイツワインの魅力を手軽に感じられる2本をセレクト。ぜひお試しください。

 

ラングート エルベン シュペートレーゼ

ラングート

ラングート エルベン シュペートレーゼ
参考小売価格:税抜1,208円

モーゼル地方の代名詞リースリングのほか、シルヴァネールとミュラートゥルガウをブレンド。フルーティーな香りとはつらつとした酸が調和した、バランスのよい白ワインです。やや甘味のある豊潤な飲み口で、和食からエスニックまで料理との相性も抜群です。

 

 

 

ラングート エルベン シュペートブルグンダー

ラングート

ラングート エルベン シュペートブルグンダー
参考小売価格:税抜1,208円

国際的な評価が高まっているドイツのピノ・ノワール。透けるような淡い赤色で、ほのかなタンニンと果実味が特長です。ほどよい酸を感じさせるチェリーやブラックベリーのような香りをもち、肉料理やパスタに合わせても引き立つミディアムボディの一本です。

 

 

 

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※ワインについては、記事掲載時点での情報です。