毎年7月がやって来ると、「土用の丑の日」に頂くうなぎを楽しみにしている人も多いと思います。なんと今年(2022年)の夏は2度も訪れる土用の丑の日。みなさんは、どのようなお酒とうなぎを合わせますか? 実は老舗うなぎ店「日本橋いづもや」さんでは、昭和の時代からワインを提供していたそうです。うなぎとワインの合わせを開拓してきた「日本橋いづもや」のご主人、岩本公宏さんにお話をうかがいました。
text WINE OPENER編集部 photo よねくらりょう

今年の「土用の丑の日」は2度やってくる!
日本人が夏にうなぎを食べるようになったのは1000年以上も前に遡り、日本最古の和歌集「万葉集」には、このような歌が記されています。
「石麻呂に 吾物申す 夏痩せに よしと云ふ物ぞ うなぎ取り召せ」大伴家持
友人である石麻呂に対し、夏痩せにはうなぎを食べるといいと伝えた歌です。また、「土用鰻」が夏の季語として親しまれているように、土用の丑の日にうなぎを食べる風習は江戸時代から日本に根付いています。 土用とは、二十四節気の四立「立春・立夏・立秋・立冬」の前18日間のことを指します。この土用の期間内の丑の日が「土用の丑の日」となるため、なんと今年は 7月23日(土)と8月4日(木)の2回もうなぎを頂く大義名分があるのです! うなぎを頂く際は日本酒が合うのは言わずもがな、実はワインも多くのうなぎ店のメニューに載っています。うなぎとワインの関係性について、40年以上も前からワインを提供している老舗うなぎ店「日本橋いづもや」三代目・岩本公宏さんに、お話をうかがいました。

―1978年からワインを提供していたそうですが、どのような経緯で取り扱いが始まったのでしょうか?
「日本橋いづもや」岩本公宏さん(以下敬称略、岩本):うちは大手町や丸の内からほど近く、当時も商社さんはじめ大企業のお客様にご利用いただいていました。そういった方々が来られて「ワインはないのか?」とリクエストされたのが、どうも最初だったようです。当時、うなぎ店にあるお酒といえば瓶ビールと熱燗くらい。強いて言えばウイスキーと焼酎がボトルキープしてある感じですね。うちは昔から白焼きが名物のひとつで、すごくさっぱりしているんですね。それにわさび醤油をつけて、白ワインと合わせる方が多かったようです。今もお客様には白焼きと白ワインを楽しんでいただいていますし、日本酒よりもワインのオーダーが多い日も珍しくありません。
―ワインはどのような視点でセレクトしているのでしょうか?
岩本:実は僕、お酒が飲めないんですよ。だからお酒に対して自分の主観がありません。うなぎ店なのでうなぎに合わないお酒を置いても仕方ありませんが、結局お酒を選ぶのはお客様ですよね。ワインに関しても赤と白、シャンパーニュそれぞれ幅広い価格帯で揃え、お客様に選ばれるものを置くようにしています。最近は個人的に日本ワインが面白いと思っていまして、長野や新潟、北海道などの産地に足を運んで勉強を続けています。9月頃から、日本ワインの取り扱いも始めようと思っています。
うなぎとワインの間を取り持つものは
「好き」という気持ち
―先ほど白焼きと白ワインというお話がありましたが、貴店のお客様はうなぎとワインをどのように楽しんでいるのでしょうか?
岩本:当店にはうなぎの魚醤を蒸したうなぎに塗って焼き上げる「いづも焼き」というメニューがあります。あるソムリエさんは、これを最初に召し上がり、シャンパーニュと合わせていました。次に白ワインを開け、うざく、白焼きの順でご注文。その後に生醤油焼きを頼まれたところで赤ワインを開けて、続いて肝焼きですね。そして最後に蒲焼きで〆るという順番でした。こうやってうなぎとワインをコース仕立てで組み立てることができるのは、いづも焼きや生醤油焼きといった、当店ならではの料理があることが大きいのではないかと感じています。

―結局、うなぎとワインの間を取り持つものは何だとお考えですか?
岩本:これはうなぎに限ったことではないと思うんですが、自分の好きなお酒がその料理に一番合うと思うんです。いま、ワインとうなぎと検索すれば、かなり詳細な情報を手に入れることができますよね。もちろん、そういった情報を仕入れてワインとうなぎのマリアージュを楽しむのもいいと思います。でもちょっと、頭でっかちになってしまいませんかね。このワインが好き、このワインがおいしい!という純粋な気持ちも大切なんじゃないかと思うんです。やっぱりみんな、自分の好きなお酒があるわけです。それでうなぎを食べたら、一番おいしいんじゃないですかね。質問の答えになるかわかりませんが、うなぎとワインの間を取り持つものは「好き」という気持ちだと思います。
―最後に、うなぎとワインに合う、自宅で簡単に作れるおつまみを教えていただけますか?
岩本:ご用意したのは、白焼きの上にカマンベールチーズと枝付きの干しぶどうを乗せただけの、簡単なおつまみです。家でワインを飲んでいるときは、ワンフィンガーで食べられるものがいいかなと思いまして…。冷えた白ワインがとても合いますね。

―どういった味の構成をイメージして考案いただいたのでしょうか。
岩本:実はうなぎの白焼きには、バルサミコのような少し甘みがあるものが合うんですよ。そのイメージで、カマンベールチーズと干しぶどうを乗せました。カマンベールチーズよりも酸味のあるクリームチーズがあれば、そっちを使うのもいいですね。うなぎとチーズは圧倒的に合います。イタリアの漁村でもうなぎを食べる風習がありますが、トマト煮にするんですよね。うなぎの個性はとても強いので、チーズやトマトと合わせても決して負けることはありません。ぜひご家庭で試してみてください。
―ありがとうございます! このおつまみに料理名をつけるなら、どんな名前になりますか?
岩本:えっと…そこまでは考えていませんでした(笑)。そうですね、うなぎとカマンベールチーズなので、「ウナンベールの干しぶどう添え」でお願いします。
―ばっちりですね。読者の方々にはぜひ、この「ウナンベールの干しぶどう添え」と白ワインをご家庭で楽しんでいただきたいです。岩本さん、本日はありがとうございました。
■お店データ
日本橋いづもや本店
東京都中央区日本橋本石町3-3-4
ご予約:TEL03-3241-2476
午前11時~午後2時30分(ラストオーダー午後2時)
午後5時~午後10時(ラストオーダー午後9時)
日曜・祝日定休
https://www.idumoya.com/
(外部サイトにリンクします)
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ご紹介頂いた「ウナンベールの干しぶどう添え」にぴったりのワインはこちら!
ベリンジャー
ナパ・ヴァレー シャルドネ
参考小売価格:税抜3,508円
トロピカルフルーツや青リンゴ、シトラスの風味に芳醇なフレンチ・オーク樽の香りがバランスよく加わった、絶妙な味わいが魅力。
蒲焼きにはこちら! 醤油のコクと焼いた鰻の香ばしさを柔らかい果実味とタンニンが包み込みます。
グランポレール
グランポレール安曇野池田メルロー
参考小売価格:税抜4,008円
果実由来のベリーの香りと上品な樽香が良く調和した、メルローらしい柔らかく緻密なタンニンが特長。
ちょっと変わったペアリングのおススメはこちら。
シャンパーニュ・テタンジェ
ノクターン ロゼ
参考小売価格:税抜10,008円
ノクターンはフランス語で“夜想曲”という意味。夜のシャンパーニュに相応しい、甘美でふくよかな仕上がりで、白焼きにも蒲焼にも意外なほどよく合います。
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※ワインについては、記事掲載時点での情報です。