家飲みワインの時間をもっと充実させたいと思ったら気になり始めるのがワイングラス。せっかくなら素敵な1脚を手に入れたいけれど、何を基準に選んだらいい? グラスの形? 価格? それとも…。
そんな迷えるワイン2年生のために、ワインオープナー編集部がテイスティングしながら、グラス選びを体験。実際に、赤ワイン、白ワインのテイスティングを交えながらレポートします。
今回、グラス選びのエキスパートとしてナビゲートをお願いしたのは、プロ御用達のグラスブランドとして知られる東京・湯島の「木村硝子店」、木村祐太郎さん。第1回目の赤ワイン編は、「ベリンジャー ファウンダース・エステート カベルネ・ソーヴィニヨン」をお題に、編集部員2人が、マイフェイバリットグラスを探ります。その結果やいかに…!
text WINE OPENER編集部 photo よねくらりょう
今回ナビゲートしていただいた方
ワイングラスのエキスパート
木村硝子店 木村祐太郎さん
1910年創業、東京・湯島にある「木村硝子店」は、国内外の腕のいいガラス工場と提携し、プロのお眼鏡に叶う自社デザインのグラスが高く評価されているグラスブランドです。4代目にあたる木村祐太郎さんは、普段から国内はもとより、機会があれば海外のバーやレストランにも足を運び、プロやお客さんが手にとる現場でどのようにグラスが用いられているかを体感したり、食文化の歴史をひも解いたりしながら、新たなグラスのインスピレーションを得ています。グラス選びのモットーは「自由に楽しく!」

木村硝子店
ショールームは木、金、土のみ営業 12:00-19:00
住所:東京都文京区湯島3-10-7
TEL:03-3834-1784
https://www.kimuraglass.co.jp/zizi
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生徒役は編集部の2人
A澤
外で飲むことが難しいワーキングママのため、もっぱらワインは家飲みで楽しむ派。よく飲むワインはすっきりした白ワイン。特にニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランがお気に入り。
S木
すでに家飲みでは、木村硝子店の人気グラス「ピッコロ」を愛用中。よく飲むワインは果実味と酸のバランスの良いアメリカのピノ・ノワール。
今回セレクトした赤ワインはこちら!
ベリンジャー ファウンダース・エステート カベルネ・ソーヴィニヨン
参考小売価格:税抜2,008円
カリフォルニアの豊かな太陽を浴びて育つぶどうと、高い技術と長い経験から造られるワインは、幅広い層に人気です。ブルーベリーの香り、絹のような舌触り、そしてシナモンやバニラモカを想わせる余韻が魅力。収穫された畑によって別々の樽で熟成されたバランスの良いワインです。
百聞は「一飲」に如かず!?
グラスのサイズで変わる味わいにびっくり!
S木:木村さん、今日はグラス選びに迷える私たちをどうぞよろしくお願いします。グラス選びの前に、木村硝子店さんがグラスを作る際、独自の考え方で臨んでいると伺いました。グラス選びにも通じるような気がするので、グラス選びの前に、まずはそこからお話を伺えますか?
木村祐太郎さん(以下敬称略): 僕は、ワインってどんなふうに造られ始めたのかなとか、長年親しまれてきた昔からの飲み方ってどういう意味があるんだろうとひも解いていくのが好きで。たとえば、イタリアには分厚いコップでワインを飲む習慣が普通に残っていたりするのですが、なぜなのかわかった上でオマージュしたワイン用コップを作ったりしています。

A澤:コップでワインですか! 面白いですね。
木村:僕の中では、ワインを楽しく飲める近道は、ワインについて考えずにおいしいと思えること。ワインを飲むにあたって、日本ではヒエラルキーが存在していて、そういうものがない方が楽しいですよねという提案をしているのが、僕のグラス作りの根本にあります。
おいしく飲める手段を、その人に合ったものが探せるように、たくさんいろいろなタイプのグラスがあった方がいいよねというスタンスですね。
最初の「ベリンジャー ファウンダース・エステート カベルネ・ソーヴィニヨン」で試してみてほしいのが、 ステム(脚)がない「ベッロ」という気軽なグラスシリーズ。これは、日本酒や緑茶にも使えるワイングラスという設定で作ったんですよ。取り組むきっかけは、先程話に出た、イタリアで使われている分厚いワインのコップ。僕にとってはこのコップが、なんとなくコップ作りの師匠みたいな位置付けで。誰もが気軽においしいワインをおいしいと言えるグラスを目指して作りました。

S木:サイズも大中小、いろいろあるんですね。
木村:サイズ違いで味わいが変わるので、そのグラデーションもぜひ味わってみてください。
A澤:確かにサイズによって味が違いますね。
S木:ボトルに詰められたワインそのものが味わえるのは一番小さいサイズのように感じます。
木村:そうなんです。Sサイズは、ブドウを丸ごと1粒食べているかのような、何か一つにまとまった味がしますよね。
S木:一方で、この大きいサイズは味の拡がりがあるというか…。
木村:味の最初と最後はきちんと感じられて、味の去り際に、 そのワインが持つ強さを感じます。
S木:そうですね、何か味わいの層があるような印象です。
A澤:大きいグラスになればなるほど、口に含んだ瞬間に感じる味わいと、後の方に感じる味わいの幅が広いような気がします。味の要素が多いといいますか。 味の感じ方が全然違いますね。先入観で、一番小さいグラスで飲んだら渋みを強く感じるんじゃないかと思ったのですが、実際に飲んでみたら、果実味がすごくダイレクトに感じました。どちらかというとワインを飲み慣れてない方は、一番小さいサイズがよいかと思いました。
S木:確かに、そもそもフルボディのワインって、少しずつ味わうもの。だからこういう小さいグラスで楽しむのはアリですよね。グラスのサイズが大きいと、一口の量が多くなってしまいますし。
木村:僕の中でグラスのサイズが小さくなればなるほど、味わい深くなっていくイメージです。一般的なイメージとは逆の印象ですよね。
S木:こうしてサイズ違いを試してみると、差を感じますね。小さいサイズの方が好みです。
木村:実際に飲んでみると、イメージとは違いますよね。
A澤:今回、衝撃だったのが一番小さいサイズで感じた味わいです。どうしても、先入観があって、大きいグラスを回して香りを楽しんでから飲むというイメージがありましたが、必ずしもそうしなくてもいいんだと思いました。
木村:ワインに限らずお酒全体に言えるかもしれませんが、ワインのことを知れば知るほど、まだ何も知らないと思うことが多いです。わかったと思ったら最後というか。
S木:確かに。私も一番小さいサイズが面白いと思いました。でも、家で使うとしたら、この2番目に小さいサイズかな。一番小さいのは、はっきりと味わいの違いは出ますが、一方で、自宅でそこまで違いがわかるものが必要なのかという気もしました。どちらかというと、洗いやすいなど、扱いやすさも重視したくなりますね。
木村:そもそもこのグラスは、日本酒や緑茶にも使えるワイングラスという設定で作ったんですよ。冒頭の話の中にも出てきたイタリアで使われている分厚いコップが、僕のコップ作りのひとつの理想だと思っていて。誰しもが気軽においしいと感じられるグラスが欲しいと思い、では、日本に置き換えて、気楽に手に取れるグラスはどんなものだろうと考えて作りました。
一方で、クラシカルなワイングラスでも試してみましょうか。ステム(脚)が高い方は「ピーボ オーソドックス」という飲食店でもよく使われている代表的なグラスです。もうひとつの脚が短い方は、すでにS木さんにご愛用いただいている「ピッコロ」。こちらは恐らく、爽やかな酸が立ちやすいのでその辺りの違いで好みを探っていただけたら。

S木:この2つ、香りの立ち方が全然違う! 背が高い「ピーボ」はちょっとなめし皮を加工したような、熟成からくる香りが出ていますね。意外な香りです。一方、「ピッコロ」の方は、果実の香りが立つ。同じワインなのにこんなに違うんですね!
A澤:本当ですね。「ピーボ」の方は、完全に野生っぽい香りがします。
木村:バーなどで、ワイン単体で飲んだり、ワイン会のようにワインと向き合いたい時は「ピーボ」、お休みの日に何か友達が集まって、食中や食後で飲むなら「ピッコロ」がおすすめですね。他に、グラスを選ぶ要素としては、どのようなシーンで飲むかの他に、どのようなシチュエーションで使用するかもポイントです。
たとえば、家庭で1脚だけ自分のために買うグラスと、複数で飲む時のために揃えるグラスですと、価格との相談や、扱いやすさも気になってきますよね。周囲の人を見ていると、たぶん、男性か女性でも傾向に違いがあるように思います。男性は洗うことをあまり考えず、割れようが割れまいが、自分が一番好きなグラスを選ぼうとします。女性は堅実に洗って収納するまでを視野に入れる方が多いので、やはり選ぶグラスも異なってきます。
全体を通して、今回お2人はどのグラスが気に入りましたか?
A澤:やはり衝撃を受けた「ベッロ」の一番小さいサイズですね。このグラスなら、ワインをあまり飲み慣れていない方に、カジュアルに飲んでも果実味豊かなワインっておいしいよねと感じてもらえそうな気もしました。でも、実は「ピーボ」も捨てがたいんです。あんなに熟成香が出るなんて…!
S木:びっくりでしたよね。私も普段使いの「ピッコロ」の実力は十分わかった上で、今回の「ベリンジャー」の熟成の良さを存分に引き出しているのは、「ピーボ」。ニューワールドのワインをバランスよく楽しめるグラスだと思います。
木村:僕がよく言う極論ですが、正直、グラスはなんでも良くて、中身と飲む人がいなければ始まらない。とにかく、目の前のワインに対して負い目もなく、自分が楽しむことが重要だと思います。
S木:グラスのプロである木村さんだからこそ言えるセリフですね(笑)。でも、やはり気に入ったグラスでワインを飲むと気持ちが確実に上がります!
A澤:次回の白ワイン編も楽しみですね。

白ワイン&お手入れのコツ編は7月11日(月)公開予定!
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※ワインについては、記事掲載時点での情報です。