CULTURE

ワインがもっと好きになる読書案内

ワインの知識を暗記するのは苦手。でも、ワインそのものをもっと深く理解したいし、もっとワインを好きになりたい! そんなワイン初心者におすすめの3冊を、ワイン編集者の小田祐規さんに紹介してもらいました。ぜひ手に取って、秋の夜長、ワイン片手にぱらぱらページをめくってみてください。

text 小田祐規 photo 鈴木謙介

ワインと読書

小田祐規

小田祐規
ワイン編集者であり、ワインよろず御用聴き。大学時代のバイト先で3滴だけ飲んだレ・フォール・ド・ラトゥール1990年でワインに目覚める。都内ワインバーのオープニングスタッフとなったことで、早くからボルドーやブルゴーニュ、カリフォルニアの高級ワインに触れる機会に恵まれる。2003年、美術出版社「ワイナート」編集部へ。2012年よりフリーランスとなり「Wi-not?(ワイノット?)」、「WINE-WHAT!?(ワインホワット!?)」の編集部を経て、現在はワインの執筆、編集、コンサルティングに関わりつつ、ワインショップに立ち、レストランのワインリスト作りやワインイベントなどを行っている。

ワイン初心者におすすめの本①
「The WINE
ワインを愛する人のスタンダード&テイスティングガイド」

ワインと読書

The WINE
ワインを愛する人のスタンダード&テイスティングガイド
マデリン・パケット、ジャスティン・ハマック著
日本文芸社 1,800円(税抜)

とにかく難しい、覚えるのが大変とされがちなワインという飲み物を、この本では基本的な知識、テイスティング、扱い方、ペアリング、といった入り口を経て、9つのタイプに分類して特徴を伝え、代表的な産地ごとの情報までも教えてくれます。統計的、科学的なアプローチを踏まえた客観的な情報を元に、図、グラフ、写真を駆使してカラーでわかりやすく読みやすく表現してくれているので、最初から読み通して勉強になるのはもちろん、興味があるワインや品種について、辞書的な使い方をしても役に立つ優れものです。

なかでも興味深いのが、ワインのスタイルを知るためのページ。スパークリング、ライトボディ(白・赤)、ミディアムボディ(赤)、フルボディ(白・赤)、アロマティック(白・赤)、ロゼ、デザートワインと、9つに分け、それぞれに当てはまる品種(ブレンド含む)の情報を、「味わい、アロマ、栽培地や栽培面積、おすすめのグラスや適温、価格の目安から美味しく飲める期間、気候によるアロマの傾向、その他の情報」といった形で見開き2ページで紹介しているところ。いろいろな視点の情報が視覚的にもわかりやすくまとまっているので、その部分だけでかなり感覚的に理解できるようになります。

実際に、今回のテーマに挙げられたワインを飲みながらこのページを読んでみました。まず最初に試したのは、グランポレールの「岡山マスカット・オブ・アレキサンドリア〈薫るブラン〉」。ラベルにも「薫るブラン(アロマティック・ブラン)」と書かれている通り、この分類の中でもマスカット・ブランは「アロマティックな白ワイン」の中で登場します。このブドウの特長は、果実味豊かでボディは軽やか、甘味も酸もありながらアルコール度数は低いとされていますが、このワインもまさにその通り。アロマの傾向の部分で触れられている甘やかなミカンやオレンジの花、それにハチミツの香りが特長的で、果実味がたっぷりと感じられ、甘みを感じるのに軽やかというドンピシャなワインでした。

続いては、M.シャプティエの「エルミタージュ ルージュ モニエ ド ラ シズランヌ」。果実味とボディが強く、タンニンはほどほどながら、酸とアルコール度数も比較的高いワインとされているシラーですが、こちらも面白いように特長が重なります。ベリー系のなかでも黒系が強く、胡椒をはじめとするスパイスと樽由来のバニラや樹木系の香り、他にもプラムやオリーブなどの様々な香りが複雑に漂い、ボディはしっかりしていながらもあくまでもタンニンは滑らかで味わいの下支えとしての酸がしっかりと感じられます。

このように、この本を片手にワインを楽しむことで、これから出合う様々なワインのことが、客観的にも感覚的にも深く理解できます。みなさんもぜひ手にとって、読んでみてください。

 

<読みながら飲みたいワイン>

グランポレール 岡山マスカット・オブ・アレキサンドリア〈薫るブラン〉2020年

グランポレール
岡山マスカット・オブ・アレキサンドリア〈薫るブラン〉
参考小売価格:税抜3,508円

「果実の女王」と呼ばれるマスカット・オブ・アレキサンドリアの香りに着目し、産地、収穫時期を厳選。高貴なマスカット香と、柑橘を想わせる爽やかな香りが調和した上品な甘さが魅力です。

 

 

 

OPENER LOUNGE Vol.3

M.シャプティエ
エルミタージュ ルージュ モニエ ド ラ シズランヌ
参考小売価格:税抜13,000円

しっかりとしたアタック、まろやかでエレガントで凝縮感のある優しいタンニンが特長。色は深みのあるガーネットで、赤い果実やリコリス、フィニッシュでは、黒スグリ、ラズベリー、ペッパーのアロマも感じられます。※有機ぶどう使用

 

ワイン初心者におすすめの本②
「マット・クレイマー、ワインを語る」

ワインと読書

マット・クレイマー、ワインを語る
マット・クレイマー著
白水社 2,600円(税抜)

世界中のワイナリー、批評家、ワインライター、ワインファンも含めて、ワインにある程度深く携わっている人のなかで、最も注目を集める人が誰かと言われたら、私はマット・クレイマーだと思います。本書は、そんな彼がいろいろなところへ掲載した109の記事を自身でセレクトし、まとめたもの。各産地の勉強をしたいのなら「○○ワインがわかる」シリーズがおすすめですが、単純に読み物として示唆に富んでいて面白いのはこちら。どこかに属することなく、自由な立場でワインと向き合い続けてきたからこそ、ワインファンからプロフェッショナルにまで届く、ウィットの効いた文章をぜひ読んでみください。

なかでも注目して欲しいのが、試飲論のなかにある2009年に掲載された「私のワインは私そのもの」という記事。彼はこのなかで、「ワイン自体がその何千年にも及ぶ歴史のなかで初めて、公に自己を表明する手段という役割を持つに至った」とし、今後のワインや、それに対する自己表現がどのようなものになるのかを、予言のように書き連ねてゆくのです。価格高騰により高名なワインとの距離ができてゆくことや、SNSが積極的に使われてゆくことも含めて2022年現在当たっていることばかりなのですが、そのなかのいちばん最初に登場するのがこちら。

「21世紀、ワインの世界では、意識するとしないとにかかわらず、人は『土地本位』と『ブランド本位』ともいうべき立場のあいだに身を置きつつ、各自『ワインの自己』を確立してゆくだろう」

土地本位の立場は立地の独自性と単一品種を重視し、ブランド本位の立場は土地よりもブランドを重視することで高品質で素晴らしい内容の低価格ワインを造り上げる。こうした双方の間に身を置きつつ「ワインの自己」を確立してゆく人が増えるだろうと。こうした流れのなかで飲んでみたいのが「ベリンジャー ファウンダース・エステート カベルネ・ソーヴィニヨン」と、「ベリンジャー ナイツ・ヴァレー カベルネ・ソーヴィニヨン」の2本。前者はブランド本位の立場でカリフォルニアの果実味たっぷりのカベルネ・ソーヴィニヨンという低価格ではなかなか出合えない高品質のカベルネを造り、後者は土地本位の立場に基づき、ナイツ・ヴァレーのよりふくよかで、静的で、フォーカスの定まった大きな味わいを造りあげています。ここで双方を飲んでから、はたと気づかされるのです。ベリンジャーというブランドの魅力が共通していることに。

それはひと言で言えば「洗練された果実味の豊かさ」です。どんなにカリフォルニア中の土地から集めたリーズナブルなワイン用のブドウであろうとも、きちんとしたブドウを選び、清潔なセラーで、きちんと温度管理をされて造られたワインだからこそ伝わるベリンジャーというブランドの魅力ですね。マット・クレイマーもこの記事の締めくくりはこのように綴っています。

「とはいえ時流で変わらぬものがひとつある。人を虜にしてやまぬワインの魅力と美だ。これに比べれば、何が起きようが、年代物の布地に新しいしわができるくらいのものだ」

あなたもこの魅力と美、体験してみませんか?

 

<読みながら飲みたいワイン>

ベリンジャー ファウンダース・エステート カベルネ・ソーヴィニヨン

ベリンジャー
ファウンダース・エステート カベルネ・ソーヴィニヨン
参考小売価格:税抜2,008円

ブルーベリーの香り、絹のような舌触り、そしてシナモンやバニラモカを思わせる余韻が魅力のワイン。収穫された畑によって異なる樽で熟成されたバランスの良さも見逃せません。

 

 

 

ベリンジャー
ナイツ・ヴァレー カベルネ・ソーヴィニヨン
参考小売価格:税抜5,600円

厳選された畑で収穫したぶどうの特長を最大限に活かしたベリンジャーの高級ワイン。ブラックチェリーやカシス、ミントの風味にフランス産オーク樽の香りが加わり、絶妙な芳醇さを醸し出しています。

 

ワイン初心者におすすめの本③
「魂のこよみ」

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魂のこよみ
ルドルフ・シュタイナー著
筑摩書房 900円(税抜)

最後にご紹介するのは、ビオディナミという農法。これを提唱したルドルフ・シュタイナーの本です。ビオディナミというのは、オーガニックな農法のひとつで、人工的な農業手法を排除することで、農業そのもの、自然界そのものを理解するためのものです。春に植物からは芽が出て、葉がつき、花が咲きます。こうしたひとつひとつが、太陽、月、そして植物自体からのエネルギーを感じることで理解できるようになる。ただ無農薬であるといった技術的なことではなく、このような、自然との共生を大切にしたものが、ビオディナミ農法です。

本書は1912年の復活祭に、「カレンダー1912–13年」として発表されており、春から始まる四季を52週に分け、週ごとに感じられる人の内面と宇宙や自然との繋がりをどのように取り込み、アウトプットしてゆくのかということを、詩という形で抒情的に綴っています。前半部分は、外との結びつきを内へとどのように取り込んでゆくのか。後半部分は、内に取り込んだものをどのような意思を持って、外へとアウトプットしてゆくのか。これが最初の1週は最後の52週に対応し、26週と27週まで見事に対応した形で綴られています。

当時との時代背景の違いや、思想的な側面もあり、一言一言を深く理解しようとすると大変なので、サラッと読み進めることで感じとれたものだけでも、この本から得られるものは、ワインだけでなく、自然や人との関わり合い方にも応用できる良書です。

たとえば、春の第1週冒頭では「太陽が 宇宙の彼方から感覚に語りかけると 視ることの喜びが 魂の奥底から湧き上がり 陽光とひとつになる。」とあります。日照量に恵まれたワインと一言で言っても、その太陽は遥か彼方から果実にその力を与えてくれていて、それを感じとることができるというその喜び自体が、どれだけ素敵なことなのかが、改めて感じられますね。ワインをただ飲むということだけではなく、その液体のなかにある、太陽や月、土壌や植物のエネルギーから伝わるものがどれだけ感じられるかということが、大切だということです。

こうした点を踏まえて飲んでみたいのがこちらの2本、「パラ・ヒメネス シャルドネ[オーガニック]」と、「パラ・ヒメネス カベルネ・ソーヴィニヨン[オーガニック]」です。パラ・ヒメネスは、「ビオディナミ農法を採用しているスペイン中部、ラ・マンチャ地方の生産者。ビオディナミ認証団体「demeter」スペイン支部の代表責任者でもあります。1993年の設立当時、この地ではオーガニック、ビオディナミという取り組みは風変わりなものと捉えられていましたが、彼らにとっては伝統的にやってきた自然なことの延長でした。そうして長きに渡り続けてきたからこそ、その恩恵は、どのワインにもきちんと反映されており、陽の光を強く感じる味わいで、スーッと伸びる奥行きと透明感、そして余韻に至るまでのエネルギーに満ちています。

 

<読みながら飲みたいワイン>

パラ・ヒメネス シャルドネ[オーガニック]

パラ・ヒメネス
パラ・ヒメネス シャルドネ[オーガニック]
参考小売価格:税抜1,000円

完熟した果実の甘いアロマとスパイシーな香りが魅力的な白ワイン。色は輝く黄金色で酸味のバランスも良く、華やかな味わいが楽しめます。
※有機ぶどう使用、ヴィーガン対応

 

 

 

 

パラ・ヒメネス カベルネ・ソーヴィニヨン[オーガニック]

パラ・ヒメネス
パラ・ヒメネス カベルネ・ソーヴィニヨン[オーガニック]
参考小売価格:税抜1,000円

ブラックベリーやブラックチェリーのアロマに黒い粒胡椒のスパイシーな香りが特長的。紫色を伴った深いレッドチェリーの色調で、完熟した果実ならではのきめ細やかな渋味と豊富な果実味が楽しめます。
※有機ぶどう使用、ヴィーガン対応

 

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※ワインについては、記事掲載時点での情報です。