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本場が認めた日本人シェフたちの奮闘記
パテ・クルート世界大会の舞台裏【後編】

昨年11月29日、フランス・リヨンの「アベイ・ポール・ボキューズ」で開催された「2021年パテ・クルート世界選手権決勝大会」では、2019年の東急ホテル 塚本治シェフに続き、アジア代表の東京・田園調布「メッツゲライササキ」福田耕平シェフが優勝、東京・湯島「アターブル」中秋陽一シェフが世界3位に輝くという快挙を成し遂げました。フランスでは、ワインのお供としても定番の「パテ・クルート」。二人の日本人シェフがトップクラスに輝くまでの道のりをうかがいました。後編では、お二人の「パテ・クルート」にかける思いや、ワインとの相性についても紹介します。
text WINE OPENER編集部 photo 鈴木謙介

パテ・クルートインタビュー後編
後編では福田耕平シェフ(左)と中秋陽一シェフ(右)にパテ・クルートにかける思い、パテ・クルートとワインの相性などをお聞きしました。

【前編はこちら

パテ・クルートは先人からの宿題!?
伝統的なフランス料理に臨むシェフの姿勢とは

―本来は2020年に出場予定だったのが、2021年に延期になったわけですが、それに伴い当初のレシピも見直したのでしょうか?

中秋陽一シェフ(以下敬称略、中秋) :マリネの方法を少し変えたりはしましたが、パイ生地の配合、焼き加減、ファルス(詰め物)の割合といった基本に関わる大きな部分は変えず、ちょっとした調整にとどめました。パテ・クルートは、どこか一部分を大幅に変えると、別の部分に必ずひずみが出て、そこを改良すると、今度はまた別の部分にひずみが生まれて、結局ゼロから作り直すことになりかねないので、延期された期間の中で、実践と微調整を重ねつつお店でもずっと出していました。

福田耕平シェフ(以下敬称略、福田) :パテ・クルートって複雑ですよね。僕は、もっとわかりやすい味にできるのでは?と改良を加えていたら、かなりバランスが崩れてしまって。これではまずい!と思ったのは、本番前に開催された壮行会で、中秋さんのパテ・クルートを食べたから。それがもう、本当においしくて! そこからは引き算する作業に取りかかりました。その結果、ファルスの甘さとベースになるスパイスのバランスが、自分の納得する味に落ち着きました。

パテ・クルートインタビュー後編
中秋シェフの受賞作品(提供:日本シャルキュトリ協会 ©Akiyoshi Ishii)
パテ・クルートインタビュー後編
福田シェフの受賞作品(提供:日本シャルキュトリ協会 ©Akiyoshi Ishii)

―お二人のお話を伺っていると、パテ・クルートは複雑なパズルのようですね…。本番で作るにあたってどのようなことを心がけたのでしょう? ワインとの相性を意識したりしたのでしょうか?

中秋 :僕はフランス料理を作る際に心がけているのは、「フランス人が食べた時に、これはフランス料理だと思える料理を作ること」です。ファルスの構成や食材の火の入れ方など、伝統的なフランス料理の手法に則っています。そのため、ワインと合わせるということを特別に意識しないのですが、フランス人が食べるということを前提に考えると、必然的にワインのある食事にフィットするとは思います。

福田 :この大会は、予選の時から各国の有名店のシェフたちが出場していて、皆さん、何かしら自己表現を試みるのですが、クラシックな料理なだけに、実は王道の枠がある。ワインよりも、その枠の中で新しさを表現することを意識しました。パート(パイ生地)はしっかり焼きつつ、ファルスの火入れはしっとりと仕上げるという矛盾を、考える余地だと捉えたら、僕にとってパテ・クルートは、先人が遺した宿題に思えてきたんです。

緊張の順位発表の瞬間!
帰国後、より多くの人にパテ・クルートが浸透中

パテ・クルートインタビュー後編
「2021年パテ・クルート世界選手権決勝大会」に出場した世界各国の強豪シェフたち(©M. CHAPOUTIER)

―パテ・クルートがフランス料理の中でも特別な位置付けであることが、お二人のお話からも伝わってきました。そんな料理の世界一を決める大会で、福田シェフは優勝、中秋シェフは第3位に輝いたことは、改めて快挙ですね。

福田 :優勝の発表を聞いた時は嬉しい気持ちと信じられない気持ちでした。帰国後は、大会前とは異なるパテ・クルートを作ることに対しての責任を実感しています。もちろん、それまでも手を抜いたりはしていませんが、以前なら多い時で1週間に10本くらい焼いていたのが、今は、週3本以上は焼けないです。

―中秋シェフは受賞の瞬間、いかがでしたか?

中秋 :僕は、すごく悔しかったんですよね…。優勝する気で行ったので。不完全燃焼だったのでいつかリベンジできたらとは思っていますが、今はお店に集中です。

―帰国後、お店のパテ・クルートを目当てに来ている方も多いのではないでしょうか。今まで日本で上位入賞した方の中で、レストランのオーナーシェフは初めてですよね。

中秋 :お店では、せっかくいらしてくださるお客様のご要望にお応えできるよう、売り切れないようにその日冷蔵庫にある材料を活かして焼いています。僕、基本的にレシピにしないんですよ。今回のパテ・クルートも、ほぼフィーリングで作っていました。今、うちの謳い文句は、現状日本のレストランの中ではナンバーワンのパテ・クルートが食べられることです(笑)。確実に召し上がりたい時は、予約をおすすめしています。

大会をスポンサードした「M.シャプティエ」ってどんなワイン?
パテ・クルートに合う2種をシェフがテイスティング!

 

パテ・クルートインタビュー後編
お二人に大会をスポンサードしたM.シャプティエの「クローズ・エルミタージュ ルージュ レ メゾニエ ビオ」などを改めてテイスティングしていただきました。

―今回、パーカーポイント100点を42回獲得し、世界最多獲得回数を誇る「M.シャプティエ」が大会をスポンサードしていましたが、印象はいかがでしたか?

福田:シャプティエ賞もあるくらいですしね。世界大会は、昔、シャプティエの本社近辺で開催していたという話も聞いたことがあります。

中秋 :僕は、お店でもシャプティエのワインをオンリストしています。もともと、アヴィニョン(M.シャプティエがあるローヌの銘醸地タン・エルミタージュと共にローヌ川沿岸の街のひとつ)のレストランにいたこともあり、シャプティエのワインには親しみを感じていました。

―今回、お二人のパテ・クルートとの相性でセレクトした、白「シャプティエ コリーヌ・ローダニエンヌ ヴィオニエ ラ コンブ ピラット ビオ」赤「シャプティエ クローズ・エルミタージュ ルージュ レ メゾニエ ビオ」の2種類をテイスティングしていただきたいと思います。

「コリーヌ・ローダニエンヌ ヴィオニエ ラ コンブ ピラット ビオ」は、フレッシュかつ、ヴィオニエらしいアロマが際立ち、ミネラル感の豊かな味わいのワインになっています。

一方、「クローズ・エルミタージュ ルージュ レ メゾニエ ビオ」は、太陽を感じさせるような十分に熟した黒系果実の香りで、スパイシーさや甘草のニュアンスが感じられる味わいのワインです。 パテ・クルートインタビュー後編

M.シャプティエ
コリーヌ・ローダニエンヌ ヴィオニエ ラ コンブ ピラット ビオ
参考小売価格3,000円(税抜き)

中秋 :僕のパテ・クルートは白肉(ブレス鶏やホロホロ鶏など)がメインで、少し燻香をまとわせたりしたので、ヴィオニエの方が合いますね。

福田 ヴィオニエは、家飲みならタイ風さつま揚げとか、それに添えるナンプラーやスイートチリソース、パクチーなどフランス料理以外とも相性がよさそうですよね。

中秋 :あとは、スモークチキンもいいと思いますよ。最近スーパーでも味付きのサラダチキンをよく見かけますよね。ヴィオニエの独特の味わいと薫香は合います。

福田 :僕のパテ・クルートは、ファルスに鴨の血が入っているので、赤のメゾニエの方とぴったり合いました。

中秋 :この赤、シラー100%なんですね。果実味もある。タンニンはそれほど強くないので、スパイシーな感じがおいしいですね。他にも、鹿、猪、リエーヴル(野うさぎ)などのジビエも合いそうです。家で合わせるなら…、ビーフシチューも合いそうですね。

福田:いいですね! 洋食以外のおつまみなら、意外かもしれせんがマグロの佃煮もいけると思います。シラーに感じる血や鉄のニュアンスがきっと合う。シャプティエのような昔ながらの伝統の製法を守っているワインは、ワイン単体で成立するのではなく、料理があって初めてピークに達するのだと思います。料理人としては、そういうワインは料理人冥利につきるというか、やりがいを感じます。

中秋 :同じくです。うちのお店で扱うのはフランスワインのみなのですが、それは基本的に、料理ありきでのワインであってほしいから。フランス料理だからフランスワインを合わせるのは基本ですし、僕は特にコンセプトとしてクラッシックなフレンチを作ることを大切にしていますので、料理とのマリアージュを考えたワイン造りを心がけてくれる生産者さんはありがたいですね。

 

福田耕平シェフ(ふくだ・こうへい)
1985年青森生まれ。明治記念館で16年間務めた後、2019年より田園調布にあるシャルキュトリ「メッツゲライササキ」にて、メインシェフに。フランス料理とお菓子作りの経験をベースにシャルキュトリを手がける。2018年パテ・クルート世界選手権アジア大会にて準優勝。2020年同世界選手権アジア大会優勝。2021年同世界選手権世界大会優勝。

メッツゲライササキ
https://www.metzgerei-sasaki.shop/
(外部サイトにリンクします)
◎TEL: 03-5755-5971
◎東京都大田区田園調布3丁目1-3
◎10:00〜19:00
火定休

 

中秋陽一シェフ(なかあき・よういち)
1981年東京生まれ。服部栄養専門学校を卒業後、恵比寿モナリザを経て渡仏。名だたる星付きレストランで4年半研鑽を積み帰国後に独立。クラシカルスタイルのフランス料理を得意とする。2017、2019年パテ・クルート世界選手権アジア大会4位入賞。2020年同世界選手権代表。2021年同世界選手権世界大会第3位入賞。

アターブル
http://atable-tokyo.co.jp/
(外部サイトにリンクします)
◎TEL:03-5812-2828
◎東京都文京区湯島3-1-1 木村ビル1F
◎月〜金 18:00~24:00(23:00L.O.)
土・祝   18:00〜23:00(22:00 L.O.)
日定休

※各ショップは、新型コロナ感染症対策により営業内容に変更可能性あり。最新情報はお問い合わせください。

 

M.シャプティエ クローズ・エルミタージュ ルージュ レ メゾニエ ビオ

M.シャプティエ
クローズ・エルミタージュ ルージュ レ メゾニエ ビオ
参考小売価格:税抜3,800円
パテ・クルートの複雑味を打ち消すことなく、ブラックカラント、ラズベリーといった赤い果実の風味とスパイス感を乗せることができる。深みはありつつも、重厚な料理であるパテにも合わせやすいフレッシュさが特長。

購入はこちらから(外部サイトにリンクします)

 

協力:日本シャルキュトリ協会 http://charcuterie.jp/

(外部サイトにリンクします)

 

※ワインについては、記事掲載時点での情報です。