いいワインにはいい音楽を。音を知り尽くしたプロフェッショナルたちに、ワインと音の関係をうかがい、毎回、ワインを楽しむためのエクスクルーシヴなプレイリストを作っていただく特別企画「OPENER LOUNGE talk&music」。第7回は、ラジオパーソナリティとして活躍するクリス智子さんが登場。テイスティングしていただいたのは、「マルケス・デ・リスカル オーガニック ブランコ ソーヴィニヨン」です。実は、社団法人日本キャンドル協会理事も務めるクリスさんに、ワインと音楽の時間にキャンドルを灯す楽しさも合わせて伺いました。
text:WINE OPENER編集部
ワインは、時間の流れをスローダウンさせてくれる存在
―普段のワインは白が多いと伺いました。今回選ばれたのも「マルケス・デ・リスカル オーガニック ブランコ ソーヴィニヨン」ですが、いかがでしたか?
クリス智子さん(以下敬称略):身体にすっとなじむワインでおいしかったです。私は夕方からゆっくり長く夜を楽しむので、ずっと白を飲んでいることが多いのですが、そんな楽しみ方ができるワインだと思いました。
―今回いただいたプレイリストも、ゆったりと過ごすのにぴったりな雰囲気でした。まず1曲目は、エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングというジャズの巨頭のような二人によるデュエット曲から始まりましたが、どのようなイメージで選んだのでしょうか?
クリス:よし、これからちょっと夜を楽しもうとスイッチが入るイメージですね。そして、友人や家族と語らう時間ということも意識して、デュエットを選びました。あとはやっぱりサッチモ(ルイ・アームストロングの愛称)のトランペットから始まると、一気に世界が生まれますよね。
3曲目のSamara Joyまでは気持ちを切り替える時間。全体的にピアノや歌など、雰囲気がありつつ、シンプルで力強さが際立つ曲です。ワインの好みにも通じるところがありますね。次のアルゼンチンのAca Seca TrioとQuique Sinesiの2曲は、南米系の音楽が好きなこともあり入れました。
―その次の曲のLyle Mayesはパット・メセニー・グループのメンバーだったピアニストですね。
クリス:今回は、大好きなパット・メセニー・グループを入れていなくて。今回のプレイリストに限らず、音楽をかける時は、しりとりのように連想して曲を選んでいくことが多いので、ここの流れはそんな遊び心を反映した並びになっています。Lyle Mayes『Bill Evans』の次に、ビル・エヴァンスの『Soiree』を持ってきました。
―確か、クリスさんは、パット・メセニーがお好きだったかと思いますが、今回はパット・メセニーの曲そのものはプレイリストに見あたりませんでしたね。
クリス:もう、メセニーはメセニーのアルバムだけをずっとかけてしまいますからね(笑)。
―この流れにメセニー愛を垣間見ました(笑)。次からは女性ボーカルが続きますね。
クリス:今回、歌詞にも注目して選びました。 Clare & The Reasons『Sugar in My Hair』は、「あなたのジョークに笑うことをちょっと忘れていたわ」といったような、気の利いたストーリー性のある歌詞の世界が印象的です。大好きなアラニス・モリセットの選曲理由も歌詞ですね。今回選んだ『Ironic』という曲は、アラニスの95年の世界デビューアルバム『Jagged Little Pill』に収録されています。皮肉なことを羅列した『Ironic』の歌詞の中のひとつに、「It’s a black fly in your Chardonnay(シャルドネに黒いハエ)」というワインに絡めたフレーズが登場するんですよね。
ワインを飲む時って、ただお酒を飲むという行為だけでなく、そこに感情や時間がテーブルの上に立ちのぼってきますよね。アラニスの歌詞も、幸運と不運が同居する人生の二面性を彼女お得意のちょっと皮肉を効かせて表現している。そんなところが、ワインを飲むシーンに似合うような気がしました。私はDJの方たちのように選曲のプロではありませんが、自分が身体に取り込みたい言葉と声、音について常に考えていますので、選曲にもそんな思いが現れているかもしれません。
―言葉や、声、音を、「身体に取り入れる」という感覚は、ラジオパーソナリティとしてご活躍していらっしゃるクリスさんならではですね。
クリス:「言葉」に関して言えば、歌詞以外にも、渡米した際に面白いフレーズが書かれたカードやマグネットなどを探すのが好きで、ある時見つけた言葉が気に入って家に飾っています。
「Give Me Coffee to change the things that I can change and Wine to accept the things I can’t」
日本語にすると、「私が変えられることであれば、コーヒーを入れて。でも、私に変えられないことであれば、受け入れるためにワインを注いで」という意味です。

―時にままならないことがあっても、こんな気の利いたセリフを目にすると、なんだかポジティブに乾杯したくなりますね。そして、一転、ユーミン(荒井由実・松任谷由実)の歌が登場します。
クリス:だいたいこれくらいの時間になると、途中で何か歌いたくなるんですよね(笑)。世代もあるかと思いますが、ユーミンは曲がかかるとみんな何となく歌い始めてしまいます(笑)。
―盛り上がりますよね(笑)。13曲目の『BEAU PAYSAGE』はフランス語で「美しい風景」という意味だそうですね。
クリス:ワイン畑に行くと美しい風景が広がっていて、まさに「BEAU PAYSAGE」だなと感じることがたびたびあります。今回選んだ「マルケス・デ・リスカル」には、著名な建築家、フランク・ゲーリーがデザインしたホテルがありますよね。その土地を見てみたいとか、そこに行って飲めたら素敵だろうなと想像しながら飲むのもワインの醍醐味ですよね。
旅と言えば、15曲目のマイア・ヒラサワさんの曲は、時々、旅先でも聴くのですが、ワインを飲む時に一番ポイントになるのは、私にとっては風景なんです。自分の庭やアウトドアなど、外で気持ちよく飲むとおいしいと感じますし、もちろん、家の中でもいいのですが、ワインには内と外を繋げる働きがあるような気がして。同じように、心の内と外も繋げてくれるように思います。
―と言いますと?
クリス:自分にとってワインは、時間の流れを少しゆっくりしてくれる存在なんですよね。普段の生活では、どうしても時計を見て時間通りに動くことが多いのですが、時計ではない物で時間の経過を感じられるのがワインだと思います。
ワインを飲みながら、その日会った方たちと交わした会話を反芻したりして、自分のために自分の時間を作り上げるというか、そういう時間が一日の中には必要なんですよね。
だから、先程お話した心の内と外もそうですが、ワインを媒介にして、何かそういった心象風景とワイン畑などが広がる本当の風景が生み出す、ポエティックな部分に魅了されています。
ワインと音楽とキャンドルがつくる、ピュアな自分の場所と時間
―ところで、クリスさんは日本キャンドル協会の理事もされていらっしゃいますが、ワインを飲むときには、キャンドルもいっしょに楽しんでいらっしゃるのでしょうか?
クリス:実は、ワインを飲み始めるのと同時に、キャンドルも灯すんです。
―そうなんですね!
クリス:ちょうど日が暮れる頃に、家の中のキャンドルも灯していきます。日本だと贈り物でキャンドルをもらう機会も多いようですが、もったいない気がして、使わずに飾っておく人も多いと聞きます。でも、人間って、火を見ると少し気持ちが落ち着いたり、出てくる言葉も違ってくると言いますよね。先程も触れましたが、日中はどうしても時計や携帯電話で常に時刻を確認できてしまう時代だと思うのですが、そういうものに捉われず、自分主導で時間を進める手助けをしてくれるのが、キャンドルの灯りだと思うんですよね。キャンドルをつけると、周りのものが少し見えなくなって、大事なものだけが見える感じがするんです。
―なるほど。確かに、蛍光灯の明るさだと部屋の中のあらゆるものが目に入ってきますね。
クリス:部屋の至るところにキャンドルを置いているのですが、灯すと部屋に遠近感が生まれて、同じ空間のはずなのに全然違う印象になりますよ。どんなキャンドルを選ぶかは好みによりますが、私はCANDLE JUNEさんのものを切らすことがないくらい好きです。陶器のような色もきれいです。キャンドルの下まで芯を使うのを、キャンドルを「育てる」というのですが、そこまで使い切ると喜びも増します(笑)。
「ワインと音楽とキャンドル」と聞くと、ちょっとムーディで大人な感じがするかもしれませんが、基本的には、幼い頃キャンプなどでわくわくしながら火を見た記憶や、大人になって覚えた、美しい風景の中でワインを楽しむことなどと同じで、その三つは、ピュアでシンプルな場所に自分を戻してくれる働きがあるように思います。私にとっては、自分と向き合う大切な場所であり、時間ですね。
クリス智子さんセレクト
「マルケス・デ・リスカル オーガニック ブランコ ソーヴィニヨン」のためのプレイリスト
- エラ・フィッツジェラルド,ルイ・アームストロング/Dream A Little Dream Of ME
- アート・テイタム/Wrap Your Troubles In Dreams
- Samara Joy/Everything Happens to Me
- Aca Seca Trio/Adolorido
- Quique Sinesi/¿Serás verdad?
- Lyle Mayes/Bill Evans
- ビル・エヴァンス/Soiree
- Clare & The Reasons/Sugar in My Hair
- 荒井由実/あの日にかえりたい
- エイミー・マン/This Is How It Goes
- アラニス・モリセット/Ironic
- 坂東祐大,グレッチェン・パーラト,BIGYUKI/All The Same
- orbe/ BEAU PAYSAGE
- Rufus Wainwright / Dinner At Eight
- マイア・ヒラサワ / Drom Bort Mig Igen
- Bialystocks / ただで太った人生
土壌、気候がワイン生産に適した地域として世界的に有名なスペイン・リオハ地方の老舗ワイナリー。アメリカでもっとも影響力のあるワイン専門誌の一つ「ワイン・エンスージアスト」の “ワインスターアワード”において、2013年、その年に最も優れた成果をあげ、ワイン業界へ貢献したワイナリーとして“ヨーロピアン・ワイナリーオブ・ザ・イヤー”を受賞している。
●クリス智子さんに今回試飲いただいたワイン
マルケス・デ・リスカル
オーガニック ブランコ ソーヴィニヨン
参考小売価格:税抜2,008円
有機栽培の葡萄のみを使用した、柑橘系の酸が特長のソーヴィニヨン・ブラン。コクのある飲み口、力強い味わいが楽しめます。
※ワインについては、記事掲載時点での情報です。
購入はこちらから(外部サイトにリンクします)
クリス智子
ハワイ生まれ。大学卒業時に、東京のFMラジオ局 J-WAVE でナビゲーターデビュー。以来、10年半務めた平日朝のワイド番組「BOOMTOWN」をはじめ、同局の番組を担当。 現在は、ラジオのパーソナリティのほか、MC、ナレーション、トークイベント出演、また、エッセイ執筆、朗読、音楽、作詞なども行う。得意とするのは、暮らし、デザイン、アートの分野。自身、幼少期より触れてきたアンティークから、最先端のデザインまで興味をもち、生活そのもの、居心地のいい空間にこだわりを持つ。 ラジオにおいても、居心地、耳心地の良い時間はもちろん、その中で、常に新しいことへの探究心を共有できる場づくりを心がける。ハワイ、京都、フィラデルフィア、宮崎、横浜、東京と移り住みながら、現在は、海と山のある鎌倉にて生活。社団法人日本キャンドル協会理事。
公式サイト https://christomoko.com/(外部サイトにリンクします)
社団法人日本キャンドル協会 https://japan-candle.org/(外部サイトにリンクします)
<レギュラー>
番組
・J-WAVE 「GOOD NEIGHBORS」 (月曜-木曜 13:00-16:00) https://www.j-wave.co.jp/original/neighbors/ (外部サイトにリンクします)
・中川政七商店ラヂオ「暮らしのてざわり」
・YAMAHA 「Make Waves Radio」
連載
「La finestra」(TOSO) 連載エッセイ「クリス智子の窓じかん」