いいワインにはいい音楽を。音を知り尽くしたプロフェッショナルたちに、ワインと音の関係をうかがい、毎回、ワインを楽しむためのエクスクルーシヴなプレイリストを作っていただく特別企画「OPENER LOUNGE talk&music」。第4回は、音楽家、作詞・作曲家、シンガー、音楽プロデューサーのかの香織さんが登場。テイスティングしていただいたのは、「グランポレール 安曇野池田ソーヴィニヨン・ブラン<薫るヴェール>2021」です。実は、家業の日本酒蔵の後継者でもあるかのさん。日本のクラフツマンシップへの関心が年々高まっているようです。
text:WINE OPENER編集部
「薫るヴェール」からイメージを広げた
幸せにひたる音楽
―もともとワインがお好きですが、中でも最近は日本ワインに興味津々だというお話を伺いまして、今回は日本ワインの「グランポレール」シリーズから、「グランポレール 安曇野池田ソーヴィニヨン・ブラン<薫るヴェール>2021」(以下、「薫るヴェール」)を選んでいただきました。飲んだ印象はいかがでしたか?
かの香織さん(以下敬称略、かの):青々とした香りと果実味に、ふくらみもあって、単にすっきりしているだけでなく、膨らみもあって…。とってもいい味でびっくりしました。
―ありがとうございます! こちらの「薫るヴェール」は、ソーヴィニヨン・ブランがもともと持っている個性を活かすべく醸造法にこだわり、まさに香りと味わいのふくらみを大切にしています。特長を感じ取っていただけて嬉しいです。
かの:私自身、以前は赤ワインしか飲まなかったのですが、最近は白って面白いなと思い始めて。周りの赤ワイン派も、今、白を飲み始める人が急増していて、それまで、レストランでボトル1本入れるのであれば赤を頼んでいた人たちが、ソーヴィニヨン・ブランに移っているような気がします。和食にも洋食にも合うと思いますが、この青い香りがハーブを呼ぶので、あえて和の食材と組み合わせても面白いかもしれません。たとえば、湯葉に、オリーブオイルと海塩をかけて、ちょっとディルを添えたら、「薫るヴェール」に合いそうです。
―湯葉にディルで一品できてしまいますね。食材にハーブをプラスすると、ワインとの相性がぐっとよくなりそうです。パパッと作れるおつまみはいいですよね。
かの:この2年くらいの間、コロナの影響でライフスタイルそのものが変わったので、やはり、ワインや日本酒の醸造家の友人たちとの集まりも家飲みが中心になり、自宅でおつまみを作る機会が増えたんですよね。そういう時は、だいたい週末、早めの時間にうちに集合。わが家はオープンキッチンなので、その周りにわいわい集まって、みんなで何かつまめるものを作ったり、ワインを飲んだりするんです。そんな始まりのシーンをイメージしながら、今回のプレイリストの1曲目を決めました。
―アンビエント系のジョン・ホプキンスからゆったり始まりましたね。
かの:飲む前に料理をしながら聴くとなると、ボーカルが入った曲だとそちらに意識を持っていかれてしまいそうで。料理に集中するためにも、インストゥルメンタルな音楽がいいかな、と。準備ができたらみんなで乾杯して、一口飲んで、アルコールが身体に入ってくる時の気持ちって、こう、しみ込むような感覚というか。「ああ、おいしい」と感じる幸せな瞬間がありますよね。今から楽しい時間が始まるという予感を感じさせるような音楽を、一曲目として選びました。
それに、私は選曲家ではないので、プロのDJの方のような器用なセレクションはできません。ならばどんな役割で曲を選ぼうかなと思ったら、五感にどう音楽が楽しく絡んでくるかを意識するしかないんですよね。ほどよく飲み進めた時に高揚してくる気持ちに寄り添うのは、この曲!みたいな感じの選び方で。この連載でひとりくらいそういう人がいてもいいですよね(笑)。なので、今回は、「私はずっと幸せに酔いしれていたいのよね」という気持ちを表した選曲です。大好きな家族や友人など気の置けない人たちと、グラスを傾けながら、そよ風のようにすっと通り抜ける音楽が今回のプレイリストのコンセプトですね。
―なるほど。テンポもゆったりしていて、すんなりなじむ曲でした。プレイリスト全体も、ゆるやかである程度同じくらいのテンポでまとまっていた印象です。
かの:切れ味がいい音よりは、「薫るヴェール」の包まれるような飲み口とも相性がいい音楽をイメージしたら、こうなりました。
音楽家として、醸造にかかわるものとして
気になるのは、日本の手わざと風土。
―先程仰っていたコンセプトの下、かのさんの選曲はジャンルも様々ですが、今回、坂本龍一さんや、パリに拠点を構えている三宅 純さんなど、かのさんとも縁のある、海外で活躍している日本人アーティストの曲もいくつかありますね。
かの:先日も沖縄の宮古上布を見てきたのですが、今一番わくわくするのは、ジャパンプロダクツなんです。日本の造り手を応援したい。それは、工芸品でも、お酒でも、音楽でも同じです。「薫るヴェール」には、 2020年にボルドー大学の留学から帰国した醸造家の方の知見が詰まっていると伺いました。そういう方が日本ワインの新しい扉を開けるんじゃないかなと思います。
―ご自身も音楽家でありながら、代々続く日本酒蔵の後継者であり、16年間醸造の現場で製造を経験されてきますよね。日本の手仕事やクラフツマンシップへの思いも、その影響が大きいのでしょうか。
かの:実は、大人になってからも日本酒造りに全く興味がなく、むしろ自分の家だけが江戸時代のままな気がして、若い時はもう逃げ出すように宮城の実家(創業1757年の造り酒屋)を後にしたんです。
―なんと、意外です! むしろ、なぜ跡を継ぐ決意をされたのか気になります。
かの:今回、12月にリリースするベストアルバムに、約20年前にフランスで録音した音源を入れるのですが、その時のスタジオに、なぜか参加ミュージシャンたちが友人の醸造家たちを連れてきていたんですよね(笑)
―録音スタジオに醸造家(笑)。さすが自由の国ですね(笑)。
かの:お昼からレコーディングが始まる予定だったのですが、スタジオに来たとたん、ランチを始めちゃうんですよ(笑)。だから録音が始まるのは、16時くらい。それまでずっと食べたり飲んだりしてるんです(笑)。そのうち、今度は毎日朝からパンとチーズとワインとシャンパーニュを持ち込み始めて、でもやっぱり、相変わらずワインの醸造家が混ざってるんですよ(笑)。彼らはワインの造りの話もしてくれるから、よりおいしく感じるし、買ってくるチーズも農家さんが作ったチーズでこちらもまたとびきりおいしい。そこで醸造酒に興味が湧いたんです。
向こうの音楽家の中には、小さなシャトーを買収する人もいるのですが、その時も、スタジオで、誰々がヴィンヤードとシャトーを買ったらしいという話題が出たんですよね。「へー、すごいね」と盛り上がったのですが、あれ? 待てよ? そういえば自分の家も日本酒を造っている蔵だ!とハッと気付いて。それが2003年くらいのことですね。そこから、「酒を造る」ということの真似事をしてみたくなり、今に至ります。
―ワインと音楽を通して、ご自身のルーツに回帰したわけですね。
かの:そうですね、ワインがあったから醸造酒の世界の扉が開いて、日本酒へ戻ってきたという順番でした。日本ワインは10年ほど前から気になって買っていますが、本当にレベルが飛躍的に上がってきましたよね。ぶどうと米で扱う原料は違えども、同じ醸造の世界を愛し、志すものとして、日本ワインについて周囲にも教えてもらいながら飲んでいるところです。各地の日本ワインがどんな土地で、どんな造り手から生まれているのかを知って、より深く楽しみたいと思っています。
「グランポレール 安曇野池田ソーヴィニヨン・ブラン<薫るヴェール>2021」のためのプレイリスト
- Candles/Jon Hopkins
- Courage/リアン・ラ・ハヴァス
- Illuminated/アート・リンゼイ
- Take Me Home/Angus & Julia Stone
- The Moon Washes Away Misfortune/金子飛鳥,Masako Kawamura
- S’Wonderful/Rosa Passos
- est-ce que tu peux me voir?/三宅純
- Debussy:Suite bergamasque,CD 82,L.75:Ⅲ.Clair de lune/クロード・ドビュッシー, Samson François
- Sanctuary in your pocket/かの香織
- Il mare eterno nella mia anima/岩崎琢
- Slowly/Olivia Dean
- CELLO SUITE NO.4 PRELUDE/Yasuaki Shimizu & Saxphonettes
- Butterfly/コリーヌ・ベイリー・レイ
- Very Early-Take 10/ビル・エヴァンス・トリオ
- Ooze Out And Away,Onehow/Cocteau Twins,Harold Budd
- カフェイン中毒/kiki vivi liliy
- Elephant/Benjamin Francis Leftwich
- L’Etang/ブロッサム ディアリー
- 美貌の青空/坂本龍一
日本ワインの、美しい星になる。グランポレールは、フランス語で偉大さを表す「グラン」と、北極星を意味する「ポレール」から名づけられました。北海道、長野、山梨、岡山の美しい日本の風土を活かしたワインづくりで、ぶどうの個性を引き出した繊細かつバランスのとれた味わいを生み出します。
グランポレール最高峰のシングルヴィンヤードシリーズは、畑の個性を表現した最高品質のぶどうを使用し、つくり手のこだわりを凝縮させた数量希少なワイン。グランポレールが誇るトップキュヴェのぶどうを育む産地が、長野県日本アルプスワインバレーにあるグランポレールの自社畑「安曇野池田ヴィンヤード」です。
●かの香織さんに今回試飲いただいたワイン
グランポレール
グランポレール 安曇野池田ソーヴィニヨン・ブラン<薫るヴェール>2021
参考小売価格:税抜4,008円
パッションフルーツやグレープフルーツを想わせる華やかなアロマと、豊かな酸味が感じられる日本ワインです。後口に、柑橘の果皮を想わせる苦味が心地よく広がり、引き締まった印象を与えます。
※ワインについては、記事掲載時点での情報です。
購入はこちらから(外部サイトにリンクします)
かの香織
音楽家、作詞作曲家、シンガー、音楽プロデューサー。宮城県出身。国立音楽大学声楽科卒 80年代、伝説のバンド「ショコラータ」で東京原宿・アンダーグラウンド クラブミュージックシーンでインディーズデビュー。1991年、ソニーミュージックエンターテイメントよりソロデビュー。1994年シングル「青い地球は手のひら」が全国の第2FM系でヒット。1996年「午前2時のエンジェル」のヒット以降、現在まで18枚のソロアルバムを発表。1996年には、資生堂ルージュモダン、ケイコとマナブでモデルとして出演。NHK番組「真夜中の王国」の司会、民放音楽番組の司会としてレギュラー出演。他、多くのテレビコマーシャル音楽や映画主題歌、TVアニメ音楽など作詞作曲、クリエイティブな制作活動を展開中。近年はNHK復興支援ソング「花は咲く」に歌手として参加。ポップス・クラシックなど多方面のジャンルへの楽曲提供、音楽プロデュースを手がける。
また、生家である1757年創業 はさまや酒造店(宮城県) 第12代目当主として、地域復興、活性化の一環として日本酒造りに関わる。東日本大震災以前2006年よりチャリティー活動に参加。宮城県出身のさとう宗幸氏、稲垣潤一氏、山寺宏一氏ら文化人と共に設立した「みやぎ びっきの会」(仙台市青葉区)の理事として音楽を通し、震災復興県の子どもたちの心の支援、楽器リペア支援を中心とした活動に奔走する日々を送った。
2016年、非営利一般財団法人 オーバー ザ レインボウ基金設立。災害等で閉校となった学校の校歌を100年先の未来に高音質で記録保存し伝える慈善事業「ワンソング プロジェクト」の推進、自然環境保全、復興県の子ども就学支援、自然体験キャンプを主軸にした心の支援活動を行っている。音楽、自然環境保全、日本文化。忘れてはいけない感謝の精神を音楽や日本酒という伝統文化を通して世界に伝えようと活動を展開中。
2022年12月21日には、ベストアルバム「CAOLI CANO COLLECTION ~BEAUTIFUL DAYS~」がBlu-spec CD2×2枚組+Blu-rayの3枚組で発売。
(外部サイトにリンクします)