CULTURE

OPENER LOUNGE talk&music
グラス片手に音の旅へ vol.2
大沢伸一×「マルティーニ ブリュット」(イタリア)

いいワインにはいい音楽を。音を知り尽くしたプロフェッショナルたちに、ワインと音の関係をうかがい、毎回、ワインを楽しむためのエクスクルーシヴなプレイリストを作っていただく特別企画「OPENER LOUNGE talk&music」。第2回は、音楽家、作曲家、DJ、プロデューサーであり、MONDO GROSSOとして、今年2月、ニューアルバム「BIG WORLD」をリリースした大沢伸一さんが登場。テイスティングしていただいたのは、世界中で圧倒的な支持を受けるイタリアの老舗ブランド「マルティーニ」です。大沢さんが「マルティーニ ブリュット」を飲んでイメージした音は、大人がリラックスするシーンにぴったりな「バレアリック」でした。

text:WINE OPENER編集部

「日本のバレアリック」と
スパークリングワインをつなぐもの

―今回、スパークリングワインの「マルティーニ ブリュット」に合うプレイリストを作っていただいたのですが、穏やかなインスト曲から始まって少し意外でした。シタールのようなエキゾチックな楽器の音が印象的ですね。

大沢伸一さん(以下敬称略、大沢):恐らく、ダルシマーと呼ばれるたくさんの弦が張られている楽器で、小さなスティックで叩いて音を出すんですよね。実は今回選曲した全15曲は、ひとつひとつの曲に対して個別に思い入れがあるというよりは、プレイリスト全体の緩急を重視しました。さらにいうと、シャッフルして聴いてもメリハリがつくような選曲を意識しています。

―シャッフルすると聴くたびに違う印象になって楽しめそうですね。今回、「マルティーニ ブリュット」から、どのようにイメージを広げてプレイリストを作られたのでしょう?

大沢:テーマは、「日本のバレアリック」です。

―「バレアリック」といいますと、世界中からトップDJが集まるスペインのイビザ島を中心としたバレアリック諸島の…

大沢:はい。バレアリック諸島の夕日や朝日、海を中心にイメージした音楽の一群です。いわゆる音楽のジャンルとしては、特にハウスだとか決まったジャンルはなく、「バレアリックサウンド」というのがなんとなく共有できるようなイメージがありまして。では、日本でバレアリックを表現するなら…と、考えて作りました。というのも、今回「マルティーニ ブリュット」を飲んだシチュエーションが、これからまさに日本でバレアリックが似合う場所になりそうなところで。

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バレアリック諸島・イビザ島を代表するビーチ、カラサラダビーチに沈む夕日

―日本でバレアリック! どちらでしょう?

大沢:千葉の南房総です。以前からご縁があり通っている場所なのですが、実はいま、そちらの方で、イビザ的な要素を持った施設やイベントリゾートを作りたいという方がいて、少し関わっているんです。何かあの土地が持っている空気や海が、ちょっとびっくりするくらいきれいなんですよね。それで僕も可能性を感じまして。その流れで、「マルティーニ ブリュット」を、南房総のイートインできるパン屋さんに持ち込んで、夕食の前の軽い飲みを楽しんだのですが、これがしっくりきました。

―実際に飲んでみた印象はいかがでしたか?

大沢:非常に飲みやすかったです。酸味も控えめで、いっしょに飲んだオーストラリア人のカップルも、食事前はこういう軽いのがいいよねとすごく気に入っていました。「マルティーニ」といえばヴェルモットの印象が強かったのですが、このスパークリングワインも非常においしかったです。

―よかったです! 

大沢:実はシャンパーニュを飲むのが苦手で…。

―何か意外な感じがします。パーティにはつきものですよね。

大沢:すごく大雑把にいうと、僕、恐らく、2000年代に一生分のシャンパーニュを飲んだ気がするんです(笑)。あと、食前に飲むには僕にとっては少し重たいんですよね。

―確かに、「マルティーニ ブリュット」は軽快なので、アペリティーボに向いていますよね。同様に、バレアリック的といわれる音楽も重くなく、やはり軽やかな印象です。

大沢:そうですね。ダンスビートが入っている曲にしても、アグレッシブすぎるものは今回のプレイリストに入れていませんし、「リスニングできるようなダンスミュージック」というのも バレアリックの定義の中のひとつにあると思うんですよね。さらに、チルアウト(編集部注1)やアンビエント(注2)なども入ってくるのが、僕の中のバレアリックサウンド。この場合の「バレアリック」というのは、具体的な場所を示しているのではなく、バレアリックというものが持っている世界観を日本で表現するということです。「南房総バレアリック」ですね。

―ちなみに、今までもそういった日本のバレアリックを意識した選曲はされていたのでしょうか?

大沢:そうですね、バレアリックという言葉を意識したことはあまりないのですが、僕の中でDJをやることと、今回のように音楽を選曲するということは、けっこう違いがあるんですよね。

―と言いますと?

大沢:やはり、「DJ」の時は、フロアでダンスするという機能としての音楽というか、基本的にはフロアで人々の体を動かすことが目的になる。でも、プレイリストを作るなど「選曲」となると、どんな人がどんな場所でどんなふうに聴いても、何かそれぞれの楽しみ方を発見できるように、というのが目的です。だから、選曲全体が、何か一つの大きな旅のようなもの。そんなことをイメージして、選曲しています。

音楽とお酒の組み合わせが
人々の交流をヒートアップさせる

―大沢さんは銀座で「Ginza Music Bar」というレコードをかけるお店もやっていらっしゃいますが、音楽とお酒の関係性はどのように捉えていますか?

OPENER LOUNGE Vol.2
GINZA MUSIC BARは、大沢伸一氏とコーヒープロデューサーの鳥羽伸博氏が手掛ける東京銀座で唯一本格的に音楽を聴かせるバー。東京都中央区銀座7-8-13 ブラウンプレイス4F

大沢:僕の場合は自分のお店で選曲をすることもあるので、特に、音楽とお酒の密接な関係は実感しているのですが、たとえば、数時間の中でお酒を飲むとしたら、同じお酒でも1杯目に飲むのと、3杯続けて飲んだときの感覚って違ってきますよね。だからやはりその時間の経過とともに何か変化していくことを楽しむというのが、音楽でも、お酒でも、料理でも同じなんじゃないかなと思います。その時間の経過を楽しむ感覚って、物理的に移動していなかったとしても「旅」といえますよね。

―まさに、この企画のタイトルは「グラス片手に音の旅へ」です。

大沢:音楽とお酒の関係でいえば、うちのお店が混雑して会話が活発になると、あえて話し声が聞こえないくらい爆音にすることもあるんです。

―!!! なぜですか?

大沢:結局、お酒を飲んで何か言葉を交わすと、飲む前よりも明らかに伝える内容の深さが加速していくんですよね。そのとき、会話しやすいように音量を下げるということもひとつのアイデアですが、むしろそこで、大きな声じゃないと会話が成立しないくらい大音量にして、場の温度を上げることで、その人たちの対話をさらにヒートアップすることができる。それは、音楽とお酒が組み合わさったときの最たる効力だと思います。

―音楽とお酒がある場に、人々が集まり会話して、何か新たなものが生まれる。まさに、大沢さんのニューアルバムも様々なジャンルや年代のアーティストがコラボレーションしていて、多様性のるつぼのようでした。それこそ、90年代に「MONDO GROSSO」を始めたときから、すでにジャンルを超えて、グローバルに活躍されていましたよね。

大沢:元をたどれば、京都という小さな街に住んでいながら、「MONDO GROSSO」と名付けたところからして、そもそもちょっとおかしいですよね(笑)。大きな世界を京都で夢見るという皮肉も最初は少し入っていましたが、実際に世界に行かせてもらうようになって、音楽自体をひとつの大きな芸術と考えたときに、その中でジャンルがどうとか、国がどうとかいうこと自体がナンセンスだと思っています。

―今回のプレイリストも本当にジャンルレスですしね。日本のバレアリックを楽しむなら、「マルティーニ ブリュット」の家飲みもテラスが似合いそうです。

OPENER LOUNGE Vol.2

大沢:そうですね。自由に楽しんでもらえたらと思いますが、できればどこか出かけた先で、飲みながら、海を見ながらもいいですね。僕は南房総がおすすめですが(笑)。

あと、今若い方たちがお酒を飲まないといわれますが、もしかしたら、次の日の体調などお酒のリスクを考えてしまうのかもしれません。でも、どんなものにもある程度のリスクはつきものです。たとえば車の運転もそうですよね。僕は、生まれて初めて車を運転した20歳のとき、ものすごく自由な気がしたのを鮮明に覚えています。自分が一人前の人間として存在していることを痛感しました。お酒も同じなんですよね。経験と共に、お酒との付き合いって上達していくと思うので、怖がらずにチャレンジしてみてほしいです。リスクは意識しつつ、その労力を差し引いても、お酒を飲むということは、音楽を聴くことと同じように人生に有意義な行為のひとつだと思います。

 

編集部注
1:英語で「くつろぐ」「落ち着く」「リラックスする」という意味で、音楽ではゆったりとしたテンポで、くつろげる楽曲を広く表す。
2:作曲家や演奏者の意図を主張したり、聴くことを強制したりせず、空気のように存在し、それを耳にした人の気持ちを開放的にすることを目的にした楽曲。

 

「マルティーニ ブリュット」のためのプレイリスト

  1. Two Thousand and Seventeen/For Tet
  2. Dillatronic 15/J Dilla
  3. Marriage/Gold Panda    
  4. Flutter/Bonobo    
  5. The Sun Sets on the Eastern Bloc/ Lawrence Hart 
  6. Apricots/ Bicep    
  7. Holiday (Erol Alkan Rework Edit)/ Confidence Man   
  8. 1722/Lxury   
  9. Gaberdine/Walls    
  10. The Water (re-imagined by Ghost Culture)/Amy Studt   
  11. When U Go/ Girls of the Internet   
  12. Wherever You Go/The Avalanches   
  13. Fleuve No 1/ Flore Laurentienne    
  14. Patience (feat. Ólafur Arnalds)/ Rhye    
  15. In A Persian Market/Taraf de Haidouks

 

「マルティーニ」

1863年ピエモンテ州で創業した、イタリアを代表する老舗ブランド。世界No.1*イタリアンスパークリングワイン&ヴェルモットで知られている。代々受け継がれた契約農家で造られたぶどうを使用したスパークリングワイン、ヴェルモット、リキュール製品は、各国の王室や団体から数々の賞やメダルを授与され、世界中で支持されている。

*:イタリアンスパークリングワイン:2021年1~12月販売量において(IWSR社調べ)
ヴェルモット:2021年1~12月販売量・金額において(IWSR社調べ)

 

●大沢さんに今回試飲いただいたワイン

OPENER LOUNGE_02

マルティーニ
マルティーニ ブリュット

オープン価格

北イタリアで収穫された品質の高いブドウのみを用いたフルボディタイプの辛口スパークリングワイン。フレッシュでフルーティな味わいが楽しめます。

 

 

 

※ワインについては、記事掲載時点での情報です。

購入はこちらから(外部サイトにリンクします)

 

大沢伸一
OPENER LOUNGE
音楽家、作曲家、DJ、プロデューサー。国内外の様々なアーティストのプロデュース、リミックスを手がける他、広告音楽、空間音楽やサウンドトラックの制作、アナログレコードにフォーカスしたミュージックバーをプロデュースするなど幅広く活躍。2017年にアルバム『何度でも新しく生まれる』でMONDO GROSSOを再始動。最新作『BIG WORLD』では坂本龍一、満島ひかりが参加した「IN THIS WORLD」など豪華アーティストとの変幻自在のコラボレーションが話題となっている。おもなサントラ担当作品にTVアニメ「BANANA FISH」、蜷川実花監督映画「ダイナー」。

 

Mondo Grosso
大沢伸一はリーダー兼ベーシスト。93年にメジャー・デビュー、世界標準のアシッド・ジャズ・バンドとしてヨーロッパツアーも行う。 96年にバンドは解散し、大沢伸一が楽曲によって様々なアーティストをフィーチャリングするソロ・プロジェクトとなる。 以降も時代の先をいく革新的な音楽性を求めながら、「LIFE feat. bird」を収録した『MG4』、「Everything Needs Love feat. BoA」を収録した『NEXT WAVE』などヒット・アルバムをリリースして2003年に休止。2017年14年振りとなるMONDO GROSSOのアルバム『何度でも新しく生まれる』をリリース。iTunesアルバム総合チャート1位、オリコンアルバムランキング8位になるなど音楽シーンの話題となった。2021年、ニューアルバム「BIG WORLD」をリリース。