いいワインにはいい音楽を。音を知り尽くしたプロフェッショナルたちに、ワインと音の関係をうかがい、毎回、ワインを楽しむためのエクスクルーシヴなプレイリストを作っていただく特別企画がスタートします! text:WINE OPENER編集部
記念すべき第1回は、選曲家であり、作曲家、作詞家と多才ぶりを発揮するKYOTO JAZZ MASSIVEの沖野修也さんが登場。昨年末、19年ぶりとなるKYOTO JAZZ MASSIVEの2ndアルバム『MESSSAGE FROM A NEW DAWN』を発表した沖野さんに、お題としてテイスティングしていただいたのがスペイン王室御用達の「マルケス・デ・リスカル」です。ワインを飲みながらスペインとジャズのつながりに思いを馳せていた沖野さん。その点と点を結ぶのが、あの偉大なアーティストだと気が付いて…!
日常をちょっと特別にする力が
音楽とワインにはある
―今回、スペインのワインということで、大きく「ラテン」というくくりもありかと思いましたが、沖野さんから届いたプレイリストは、マイルス・デイヴィスで始まったのが意外でした。スペインとマイルスがどうつながるんだろう?と。
沖野修也さん(以下敬称略、沖野):正直、お題をもらった時は「スペインかぁ。ジャズだと難しいかも…」と思ったのですが、実際に「マルケス・デ・リスカル」を飲んでみたらイメージが広がりました。なぜマイルスなのかについてはあとでゆっくりお話ししたいのですが、まず、このワインの印象から話していいですか?
―ぜひ、お願いします!
沖野:お世辞抜きでおいしかったです。
―(一同、ほっ)
沖野:僕、酸が強いワインがちょっと苦手でして。こちらは、スパイシーかつフルーティな味わいもあり、なおかつ渋みも感じられて、僕にとってはど真ん中のタイプです。なので、ついついグラスが進んでボトルを空けてしまいました(笑)
―お好みに合ってよかったです。普段からワインは楽しんでいらっしゃるとうかがいました。
沖野:そうですね。妻も飲みますし、家では、お手頃なデイリーワインを開けることが多いです。こちらはデイリーよりもちょっと特別な感じで、家で飲むのを楽しみたいなと思いました。たとえば、このワインを開けるから、お花を飾ろうとか、このワインの気分に合う音楽をかけようとか、そこまで手をかけた方がいいワインだと思います。
―今回、まさに沖野さんにお願いしたのも、家にいながらにして、音楽の力でさらにワインの時間が楽しめたらという思いが根底にありました。
沖野:ちょっと話が脱線しますが、僕、映画館に足を運ぶのが好きなんですよ。今時、別に家の中でもNetflixなどで映画は観られますよね。でも、あえて映画館で観たい。その理由は、家だと視界に入るものがあまりにも日常的過ぎて、物語に入り込めないんですよね。今は特に、コロナ禍でなかなか思うように外出がしづらい状況です。恐らく、皆さん、家にいる時間が増えたことで、家具を買い替えたり、 まあ、壁を塗り替えたりする人まではいないと思いますけど(笑)、照明やカーテンなど、できるだけ、家の中の視界に入るものをおしゃれに心地よくしたいという気持ちが高まっていると思うんです。
―でも、すべての部屋をおしゃれに整えるのは現実的になかなか難しいですよね…。
沖野:そう思います。だから、せめてダイニングだけはきれいに片付けて、素敵なお皿やカトラリーを並べて、いいワインといい音楽を揃える。今回のプレイリストも、そういう、日常のちょっとしたアクセントというか、スパイスになったらいいなと思います。
プレイリストはジャズの巨匠、 マイルスからスタート。 その意外な理由とは……!?
―プレイリストの1曲目は、マイルス・デイヴィスですね。曲は「Flamenco Sketches」(’59)を選ばれました。
沖野:マイルスは1960年に『Sketches of Spain』というスペインにちなんだアルバムもリリースしているのですが、今回改めてマイルスとスペインの関係について調べたところ、スペインの音楽に影響を受けて、モードジャズを始めたという説もありまして。なので、 1曲目はシックに始まりつつ、後半は飲み進めるにつれて、気分も高揚していくようなイメージでプレイリストを作りました。今回のワインが持っている上品さと、家飲みならではの楽しさのようなものを音楽で演出できたらと思います。
―この「マルケス・デ・リスカル」はスペイン王室御用達でもあるので、上品さも意識していただいたのは嬉しいです。先程のマイルスのお話ですが、マイルスはスペインの音楽のどんな部分に影響を受けたのでしょう?
沖野:マイルスがスペインを旅行した際、フラメンコを聞いてインスパイアされたようで、スペインの音楽とジャズを合体させて、この曲が収録されている『Kind of Blue』というアルバムを発表したんです。それが、モードジャズのターニングポイントなんですよね。
―なるほど。マイルスのターニングポイントは、ジャズのターニングポイントとも言えそうですね。
沖野:そうです。マイルス・デイヴィスは名前を聞いたことがある方も多いでしょうし、僕たちDJにとってもある種、レジェンドということもあり、このスペインのワインと音楽というところで、マイルスを入口にして、全10曲、約 1時間の音楽の旅というプレイリストに仕上げました。今回、特に印象的だったのが、スペインをテーマに紐解いていたら、僕の好きなモードジャズというのが、スペイン旅行をしたマイルス・デイヴィスによって開発されたという流れがけっこう衝撃で。
―沖野さんにとっても再発見になったんですね。
沖野:はい。今回のプレイリストの候補で最終的には入れなかったのですが、日本人のジャズ・ピアニストで今田勝さんという方が「SPANISH FLOWER」という曲を書いているのですが、マイルスのスペイン旅行の逸話を知って、僕とスペインの関係がわかりました。
―と言いますと?
沖野:「SPANISH FLOWER」はカスタネットの音も入っていて、僕が好きな日本人ジャズの中でも、モード・ジャズに該当する三拍子の曲なんです。要はそのマイルス・デイヴィスとかジョン・コルトレーンが60年代の中盤から後半にかけて作った、奏法に特徴があるモード・ジャズというジャンルなんですけど、なぜこの曲のタイトルがスペインなのか、ずっと謎だったんです。恐らくそれはそのマイルスの影響なんですよ。
―マイルスから日本のミュージシャンにつながるわけですね。
沖野:マイルス・デイヴィスのスパニッシュ音楽とジャズの融合の影響が日本まで伝播していて、その日本のジャズを聴いて、僕も影響を受けている。だから、僕の音楽のエッセンスの中に実はスペインの影響が入っているということが、今回わかったんです。
― なんと。DJをされている沖野さんを拝見していると、サルサやブラジル音楽にもお強いイメージでしたが…。
沖野:実はスペインの遺伝子が入っていたことがわかりました。
―音楽もですが、沖野さん、建築もお好きですよね。
沖野:実は今年の夏、フェスに招かれていてマドリッドとバルセロナ行くので、こちらのワイナリーにあるフランク・ゲーリーのホテルにも立ち寄れたらと思っています。ちなみに、僕は、今まで30年以上DJをやっていますが、一番盛り上がるのがバルセロナです(笑)。今回、「マルケス・デ・リスカル」を知って、建築ファンも興味を持つと思いましたし、ダリが愛したワインもあると聞いて、ワインが好きな人にもおすすめですけれど、ワイン以外の文化に興味のある方にもアプローチできるワイナリーだと思いました。今回の僕のプレイリストでそんなワインの楽しみが広がるといいなと思います。
「マルケス・デ・リスカル」のためのプレイリスト
- Flamenco Sketches/Miles davis
- Ole/John Coltrane
- Kiss Of Spain/Chet Baker & Duke Jordan
- Tune Up/Tete Montolie Treio
- Spanish Fantasy Pt.2/Chick Corea
- My Spanish Heart/Chick Corea
- What Game Shall We Play Today/Chick Corea
- Mar-Acustico/Wagon Cookin’
- Close To You/Jose Padilla
- Entre Dos Aguas/Paco de Lucia
「マルケス・デ・リスカル」
ワイナリーの始まりは、19世紀、スペイン、リオハ地方のギレルモ・ウルタド・デ・アメザガ(リスカル侯爵)が、地元の葡萄農家たちにフランス式のワイン製造方法を教えたことがきっかけ。スペインを代表するリオハDOCワインのスタイルを確立した名門で、スペイン王室御用達。「ティント・グラン・レセルバ」は、サルバドール・ダリが愛したワインとしても有名で、ワイナリーには彼のサインボトルが貴重に保管されています。ワイナリー敷地内にある5つ星ホテル「city of wine」は、リオハのシンボル。デザイン及び設計は、建築界の巨匠フランク・ゲーリー氏によるもので、ワイナリーは文化の発信地にもなっています。
●沖野さんに今回試飲いただいたワイン
マルケス・デ・リスカル
ティント レセルバ
参考小売価格:税抜2,508円
バニラフレーバーの香りが心地良く、味わいもエレガントで上品です。適度なタンニンが舌を満足させ、長い後味も魅力的です。
※ワインについては、記事掲載時点での情報です。
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沖野修也
選曲家/作曲家/作詞家/執筆家/ラジオDJと幅広く活躍。これまでDJ/アーティストとして世界40ヶ国140都市に招聘されただけでなく、CNNやBILLBOARD等でも取り上げられた本当の意味で世界標準をクリアできる数少ない日本人音楽家の一人。音楽で空間の価値を変える”サウンド・ブランディング”の第一人者として、映画館、ホテル、銀行、空港、レストラン、インテリア・ショップ等の音楽プロデュースも手掛けている。KYOTO JAZZ MASSIVE名義でリリースした『ECLIPSE』は、英国国営放送BBCラジオZUBBチャートで3週連続No.1の座を日本人として初めて射止めた。2021年12月、19年ぶりとなるKYOTO JAZZ MASSIVEの2ndアルバム『MESSSAGE FROM A NEW DAWN』を発表。渋谷ストリーム1F「The Room COFFEE & BAR」のクリエイティヴ・ディレクターも務める。