2003年に誕生した日本ワイン「グランポレール」。キーメッセージである「想いをつなぐ日本ワイン」を深掘りすべく、WINE OPENERでは4つの産地にフォーカスしていきます。生産者や醸造担当者の言葉から見えてくる、グランポレールに宿る魅力とは何か――。今回登場するのは、グランポレールの契約栽培農家である北海道余市弘津ヴィンヤード。弘津 敏さんと雄一さんの親子二人三脚で、「現状に満足せず、常に工夫を加えていくこと」をモットーにぶどう栽培を続けています。インタビューから垣間見えるのは、偽りのない誠実さと、自然を相手にしている男たちの覚悟。後編では、弘津親子の譲れない美学をお届けします。
text WINE OPENER編集部 photo 岡崎健志
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うまくいかないことがあっても
うまくやっていくしかない
―雄一さんはお父様のご苦労を幼少期から目にしてきたと思いますが、いつ頃から家業を継ごうと決めたんですか?
雄一さん:一応、高校は園芸科を卒業しているんですけど、明確に継ぐ意志があったわけではなかったですね。でも、小学校の文集には「将来はいろんな果物を作る」って書いてたみたいですが。
―お父様としては、やっぱり継いで欲しかったですか?
敏さん:いやいや、継ぐ継ぐまいは本人の勝手。でも一応、これだけの畑にしてきたわけだから。俺のやってることを見て、わからないことがあれば自分で調べるなり人に聞くなりして工夫してやれば、すぐダメになるような畑ではないと思ってますよ。
―ぶどう栽培をしていて、この仕事の面白さみたいなことを感じる瞬間はありますか?
雄一さん:はっきり言っていいですか?
―どうぞ。
雄一さん:ない。収穫のときだって、はじめの一日二日はいいですよ。毎日やったら、三日で飽きると思う。
敏さん:飽きることは間違いねぇ。それでも毎日畑に出て観察する。それがこの仕事だから。
雄一さん:去年よくても今年はダメなこともあるし、いったんダメになるとずっと引きずることもある。親父の言う通り観察も大事だけど、気候次第でどうにもならないこともあるんですよ。雨が続くと、もうどうにもならないこともあるし…。うまくいかないことがあっても、うまくやっていくしかないんです。
―敏さんは幼い頃、どんな職業に就きたいと思っていたんですか?
敏さん:バスの運転手。だってかっこいいじゃん、あの運転してるところが。俺は兄貴が2人いて一番下だったから、りんご畑を継ぐなんて考えなかったし、札幌で一度バス会社にも就職したんですよ。二種免許も取って。でも、そんときにおふくろがあの世に逝って、おやじ一人残すことになるから、運転手やめて帰ってきたんだ。まぁそこからいろいろな人のお世話になって、ぶどう畑をやるようになって、なんとか息子にも渡せるようになったんだから、有り難いですよ。
―雄一さんは余市弘津ヴィンヤードのこれからを、どのように考えているんですか?
雄一さん:直近では、ケルナーとツヴァイゲルトレーベの収量を増やしていくための取り組みをやろうと思っています。今、うちが栽培しているぶどうはケルナー、ツヴァイゲルトレーベ、バッカス、ピノ・ノワールの4品種ですが、個人的には他の品種にも挑戦していきたいという思いもあります。
作ったことのないぶどうを
ここで育ててみたい
―異なる品種も作りたいという気持ちの原動力は、どんなところにあるのでしょうか?
雄一さん:品種が異なれば栽培適性も違うし、味にしてもどんな特徴が出るかやってみないとわからないですからね。味わったことがない、まだ触ったことのないぶどうを、ここで育ててみたくて。
敏さん:北海道の気候に合うと言われている品種は、まぁ限られてるわけですよ。だから、作ってないものを作りたいという気持ちは俺も同じ。バッカスがそうだったように。
雄一さん:北海道で晩生種を栽培するのは条件的に厳しいですけど、そこそこの品種は育つと思うんですよ。
敏さん:北海道は寒くなるのが早いから、晩生種は熟さない。作業してても冷てぇの通り越して痛くなるから。
雄一さん:10月中旬になると、朝晩は5℃くらいまで下がりますから。
敏さん:霜が降りたらぶどうは一発で終わり。うちで一番遅いのがケルナーだけど、それより遅い晩生種は無理だな。
雄一さん:うちは10月20日前後がシーズン最後の出荷。余市の中でもこのエリアが一番早く霜が降りるんですよ。
敏さん:ぶどうはね、収穫したら終わりじゃないですよ。収穫して葉が落ちたら剪定するんだけど、ケルナーなんて葉が落ちるのを待っていたら11月になっちゃう。11月になると、こっちはもう雪が降るから剪定が間に合わなくなる。
いいぶどうを育てて、
想いを込めて醸造の人たちに託す
―雪国ならではのご苦労もあれば、この地ならではの優位性もあるわけですよね。
雄一さん:そうですね。ここはよく風が抜けますし、土壌の水はけもよくて肥料っ気がないから、ぶどうが太らない。そういったここのぶどうの個性を、グランポレールで楽しんで欲しいですね。
敏さん:ここで獲れた同じ品種のぶどうでも、その年の天候によって味が違うわけです。雨が多くて今年のぶどうはダメかなと思ってても、醸造の人たちがいいワインに仕上げてくれることもある。だから、俺たち栽培家の役目は、頑張っていいぶどうを育てて、想いを込めて醸造の人たちに託すこと。いいワインになって、それを飲んだお客さんがここに来て息子に「美味しかった!」と伝えてくれたら、最高ですよ。
弘津 敏(ひろつ・さとし)さん
弘津雄一(ひろつ・ゆういち)さん
北海道余市弘津ヴィンヤードを運営する、グランポレールの契約栽培農家。饒舌な敏さんと寡黙な雄一さんは、選ぶワインの味わいも正反対。敏さんが選ぶ1本は「辛口で、おかずがなくても黙って1本は飲める」と言う「グランポレール 余市ケルナー」。一方の雄一さんが選ぶ1本は「甘いワインが好きだから」と言う「グランポレール 余市ケルナー<遅摘み>」。飾った言葉ではなく、本音を語るふたりの姿勢から、栽培家としての真摯さが伝わってきました。
グランポレール 余市ケルナー
オープン価格
グランポレール 余市ケルナー<遅摘み>
オープン価格
全国からワインファン1,200人が来場!
「2023 La Fête des Vignerons à YOICHI」をレポート
国産ワインを代表する、道内屈指の生産地として世界的な認知も拡大している余市。そんな余市町で開催されるワインイベントと言えば、今年で7回目となる農園開放祭「La Fête des Vignerons à YOICHI」です。今年は晴天の下、2023年9月3日(日)に開催されました。
グランポレール北海道余市弘津ヴィンヤードをはじめ、14か所に設置された会場に33軒のワイナリーや農園が集まり、30を超える飲食店も出店。日本全国から余市に足を運んだワインファンは、過去最高の1,200名を数えました。
ワイナリーや農園に足を運び、風を肌で感じ、土地の匂いを記憶に刻むことは、風土を知るうえでとても大事なこと。参加者は醸造家や栽培家との交流を楽しみながら、余市産ワインに酔いしれる贅沢な一日を過ごしていました。
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※ワインについては、記事掲載時点での情報です。