2003年に誕生した日本ワイン「グランポレール」。キーメッセージである「想いをつなぐ日本ワイン」を深掘りすべく、WINE OPENERでは4つの産地にフォーカスしていきます。生産者や醸造担当者の言葉から見えてくる、グランポレールに宿る魅力とは何か――。今回登場するのは、2018年に開園したグランポレール北海道北斗ヴィンヤードで日々ぶどうと対峙する、グランポレールの4つの産地の栽培責任者である野田雅章さん。後編では、「栽培家・野田雅章」のバックボーンに迫ります。
text WINE OPENER編集部 photo 岡崎健志
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他社とも切磋琢磨しながら
道南を銘醸地に!
―北斗ヴィンヤードのこれからを、どのように考えていますか?
野田雅章さん(以下敬称略):まずはしっかりとした基盤を作ることですね。あと3年経てば、目標の収量に達するんじゃないかと考えています。近い将来という観点では、道南をワイン好きな方々が集まる地域にしていきたいですね。道南は、まだワインの産地として認められてるわけではありません。日本には長野や山梨、北海道で言えば余市といった有名な産地があります。今、道南では新しい造り手が参入してきて、少しずつ盛り上がってきている状況ではありますが実績としては薄く、産地としてはこれからなんです。北海道の銘醸地に道南も加わるように、他社とも協力しながらブランディングしていきたいと考えています。
―道南では醸造家や栽培家同士の交流は盛んなのでしょうか?
野田:そうですね。お互いの畑は自由に見学できますし、行政(北海道 渡島総合振興局)が「道南ワインアカデミー」を立ち上げてくれたので、そこの勉強会に参加して一緒に技術向上していこうと考えている人は多いですね。
「官民一体となって
道南ワインを盛り上げていきたい」
北海道 渡島総合振興局 産業振興部
商工労働観光課 主査(食戦略)
中本知世さん
北海道渡島総合振興局では、令和元年度からワイン関連事業者様向けに「道南ワインアカデミー」を主催し、セミナーなどを実施してきました。 道南は、空知や余市といった道内の先進産地とは異なり、今まさにワイナリーが増えつつある状況です。そういった新規参入事業者の横の繋がりを作ることを目的に、一緒に学び合う風土の醸成をしていければと思っています。
道南地域は北海道の中では比較的面積の小さな地域ですが、海の幸や山の幸、さらには乳製品など多様な食材が集まっています。そんな独自の食文化を育んできた土地で醸されるワインというストーリーも、道南ワインの魅力に繋がっていくのではないでしょうか。これからさらにワイナリーが増え、将来的にはワインを活かしたツーリズムが行われるような産地になっていければと期待しています。
自然が相手の仕事。
忍耐強く待つ心も必要
―野田さんは岡山大学農学部のご出身で、果樹園芸学を専攻されていたそうですが、そもそも果樹のことを学ぼうと考えたのは?
野田:やっぱり岡山が果樹産地だからですよ。全国的にもぶどうや桃の研究が盛んな大学だったことが志望理由でしたし、実際に学んで面白かったですしね。
―どんなところに面白みを感じたのですか?
野田:食べてみたら結果がわかるところでしょうか。当時から農家さんとも交流してきましたが、人それぞれやり方が違うんですよ。そこに品質的な特徴も表れるし、やっていることが結果に繋がるからわかりやすいんですよね。そこが面白かったです。
―その面白みは、今も変わらず?
野田:変わらないですね。大学時代に抱いた感動や感情は、今も変わらず持ち続けていますよ。
―野田さんが子どもの頃の夢は何でしたか?
野田:プロ野球選手だったと思います。広島で育ったので、広島カープが大好きで。 山本浩二さんがまだ現役で、古葉監督の時代ですね。別に少年団に入っていたわけではないですけど、赤い帽子を被って登校してましたよ。
―改めて子ども時代を振り返ると、当時の何かが今にも繋がっているということはありませんか?
野田:忍耐強い子どもだったと思いますよ。この仕事も忍耐強く、待つ心が必要ですから。ぶどうの栽培は醸造と違ってサイクルが長いですし、年に1回しか取り組みができないわけです。そういう意味では、気長に考えなければいけませんし、評価されにくい仕事も多い。だから私、人の評価はあまり気にしません(笑)。
―なかなか、そのような境地にはなれないですよ。
野田:私も自分がやるべきことがわかるまでに、10年くらいかかりました。国内のワインメーカーが生き残っていくためには、グランポレールのような国産ぶどうを使ったワイン造りは欠かせませんし、中心になっていくものだと確信しています。その一翼を北斗ヴィンヤードが担っていけるのであれば、それはとてもやり甲斐のある仕事ですよね。だから、例え評価されないことがあったとしても割り切れるんです。そもそも相手は自然ですからね。日々、不確実性の高い中で意思決定をしなければいけません。この仕事を30年以上続けていますが、失敗や判断ミスは当然あります。でも、自分が栽培の責任者である以上、自負を持って判断しなければならない。スタッフに信頼してもらい、適期で指示が出せるように、私自身もまだまだ成長していかなければならないと思っています。
―最後の質問です。野田さんが尊敬している人はいますか?
野田:あまり考えたことはありませんが、あえて言うなら親父ですかね。親父はフリーランスの設計技師で、手掛けたプラントの写真が家に飾ってあったんですよ。今考えると、1匹オオカミの技術屋ってすごいなと。ぶどう栽培も技術職ですし、後世に何かを残す仕事を選んだのは、親父の影響かもしれませんね。
グランポレール北海道北斗ヴィンヤード
野田雅章さん
岡山大学農学部で果樹園芸学を専攻。マスカットや巨峰などの食用ぶどうの研究に従事。1993年、サッポロワイン社(現サッポロビール)に入社。岡山ワイナリーに勤務し、敷地内にある小さなぶどう畑の管理を担当。後に、当時サッポロワイン社が所有していたワシントン州のぶどう畑の管理を担当する。ワイン研究所の所員として栽培技術や技術開発にも従事してきた。現在はグランポレールの4つの産地の栽培責任者。
My favorite GRANDE POLAIRE
グランポレール 北斗シャルドネ<初収穫>2022
オープン価格 ※数量限定販売品
「ファーストヴィンテージにしては、出来すぎたなって(笑)」と野田さんが本音を漏らす、まさに“My Favorite”な1本。好天に恵まれて育ったシャルドネの華やかな香りと、心地よい酸味とバランスのとれた果実味が特徴。リニューアルしたラベルは、函館湾から一望する北斗の山々と津軽海峡の澄んだ青い海の色を階層的に表現している。
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函館のソウルフード
観光地としても有名な朝市に行くとわかる通り、函館は海産物の宝庫で、地元民におすすめの店を聞くと「回転寿司」と口を揃える。新鮮な寿司をコスパ良く食べられるうえ、そのネタにも驚く。北斗ヴィンヤードを取材した7月には、殻つきのウニが並んでいた。野田さんがリコメンドする函館のソウルフードは、「ラッキーピエロ」のハンバーガーと「ハセガワストア」のやきとり弁当。どちらも完全なるご当地グルメだ。ランチや夜の〆には、「滋養軒」「あじさい」「しなの」など名店揃いの函館ラーメンもお忘れなく。
※ワインについては、記事掲載時点での情報です。