CULTURE

GRANDE POLAIRE STORY
~想いをつなぐ日本ワイン~
Vol.1 チーフワインメーカー工藤雅義

2003年に誕生した日本ワイン「グランポレール」。キーメッセージである「想いをつなぐ日本ワイン」を深掘りすべく、WINE OPENERでは4つの産地にフォーカスしていきます。生産者や醸造担当者の言葉から見えてくる、グランポレールに宿る魅力とは何か――。第一回目はチーフワインメーカーの工藤雅義さんにお話を伺いました。

text WINE OPENER編集部 photo 本宮 誠

GRANDE POLAIRE STORY 01

チーフワインメーカー
工藤雅義(くどう・まさよし)
グランポレールの原料となるぶどう栽培から醸造までを指揮するチーフワインメーカー。大学進学を検討しているときに発酵に興味を抱き、「発酵というプロセスを経て、複雑なものができることが面白いと思った」と当時を振り返る。サッポロワイン社(後にサッポロビールへ統合)入社後は、岡山ワイナリーでワイン醸造のキャリアをスタートさせ、1991年から1994年までカリフォルニア大学デービス校大学院でワイン醸造学を専攻する。2003年のグランポレールの立ち上げから参加し、2005年からチーフワインメーカーに就任。幼い頃の夢は「科学者」。

ワインを飲んだとき、
そこに何を見るのか

グランポレールは20周年を迎え、キーメッセージが「想いをつなぐ日本ワイン」にリブランディングされました。そこには、どのような想いが込められているのでしょうか?

工藤雅義(以下、工藤): 「想いをつなぐ日本ワイン」とは、ぶどう生産者やワイン醸造家など、1本のワインに関わる全ての人々の想いをつなぎ、お客様に届けるということです。しかし、人それぞれ具体的に伝えたいことは違うように思います。「ワインを一生懸命造っています」は当たり前のことですよね。ワインの価値を考えたときに、“美味しい”ことはもちろんですが、情緒的価値も含まれるわけです。例えばワイナリーに行ったときの風景、ぶどう畑の景色や気候、生産者の哲学や考え方、ワイナリーの歴史など、味わいとは違ったところにも価値があります。2023年に20周年を迎えたグランポレールの役割は、そんな情緒的価値を伝えていくことではないかと思っています。

私も国内外の様々な産地へ足を運びましたが、ワインを飲んで思い出すことは、「そういえば、あの畑は風がとても気持ち良かったな」とか「少し肌寒かったな」とか、自分が体感したことなんですよね。もちろん、いくつかのワイナリーやぶどう畑へ足を運んだ経験があると、ワインの情緒的価値をより捉えやすくなるとは思いますが、産地の客観的情報があれば何となく推測できて、想いを馳せるという楽しみもあると思います。

そういった客観的情報は、具体的にどのようなことをポイントに理解するといいでしょうか?

工藤:一番わかりやすいのは、気温と味わいの関係ですね。緯度や標高が高く気温が低い産地は酸味が強くなる傾向があります。また、世界のワイン産地を見ると、気温が低い場所には「アロマティック品種」と呼ばれる香りの豊かなぶどうが多い。
グランポレールは同じ品種を別々の産地で栽培する多産地展開をしています。例えば「シャルドネ」にしても、北海道北斗、 安曇野池田、長野古里、山梨勝沼で栽培しています。同じ品種を産地違いで飲み比べをすると当然違いがあり、そういった楽しみ方ができるのもグランポレールの魅力だと思います。

つまり、グランポレールという同ブランドの中で、土地の味を楽しめるということですね。グランポレールには4つの産地がありますが、それぞれの産地にはどのような個性が宿るのでしょうか? まずは北海道・余市の特長から教えてください。

工藤:余市は冷涼な気候なので、きれいな酸味を豊かに感じられるのが特長です。あとは、気温が低くドイツ系品種の栽培適地ということもあり、弊社では「ケルナー」と「ミュラートゥルガウ」と「バッカス」といった香り豊かなアロマティック品種を展開しています。赤は「ピノ・ノワール」と「ツヴァイゲルトレーベ」を栽培しています。

同じ北海道でも、余市と北斗では個性が異なるのでしょうか?

工藤:はい。余市に比べると北斗は春先と秋の気温が高く、ハングタイムといってぶどうが樹に付いてる期間が長い。収穫時期が遅く余市では栽培が難しい品種でも、北斗では可能です。ちなみに北斗では「シャルドネ」「ソーヴィニヨン・ブラン」「メルロー」「シラー」「ピノ・ノワール」「ゲヴュルツトラミネール」「甲州」を植えています。ゲヴェルツは日本では比較的珍しい品種ですが、アロマティック品種なので基本的には北海道での栽培に合っていると思っています。「甲州」は北海道では挑戦的な品種ですね。

続いて長野についてはいかがでしょう?

工藤:長野も本州の中では気温が低く、フランス系の品種は栽培適性が合ってる場所だと思います。日照時間が十分あるので赤品種も豊かに着色し、タンニン分の成熟もしっかり進みます。フランス系の品種を栽培するなら、現時点ではやっぱり長野が一番いいと思います。今後は北斗が超える可能性も考えられますが。

―長野には2つのぶどう畑を所有していますよね?

工藤:はい。安曇野池田ヴィンヤードと長野古里ぶどう園ですね。もともとあったのが古里で、1975年からぶどうを栽培しています。自社畑の中でも一番古い畑ですね。これまでに様々な品種にチャレンジしてきましたが、現在は「シャルドネ」と「カベルネ・ソーヴィニヨン」と「メルロー」、あとは貴腐ワイン用の「リースリング」を栽培しています。

一方の安曇野池田では、「カベルネ・ソーヴィニョン」「シラー」「メルロー」「ピノ・ノワール」「シャルドネ」「ソーヴィニョン・ブラン」を。古里よりも標高の高いエリアに位置しているので、酸が豊かに出る傾向があります。

―ぶどう畑だけではなく、御社のワイナリーがある産地が山梨と岡山です。

工藤:山梨は日本固有品種である「甲州」のメイン産地。赤ワイン用には山梨県の果樹試験場が品種開発した「甲斐ノワール」があります。昼夜の寒暖差がありながら、日中の気温は高い地域なので、この2品種をメインに栽培しています。

最後にお伝えする岡山は、弊社の産地としては最西。温暖な地域なので、その気候に合わせて「マスカットべーリーA」と「マスカット・オブ・アレキサンドリア」という品種を栽培しています。

GRANDE POLAIRE STORY 01

ぶどうがなりたいワインを造る

―グランポレール20年の歴史を振り返ると、産地が増えると同時に栽培するぶどう品種も増え、ワインの味わいの幅が広がってきたという背景があると思います。その中で、工藤さんがターニングポイントだったと思う出来事は何ですか?

工藤:大きく3つあったと思います。最初は2009年に安曇野池田の畑を開いたこと。同じ品種でも産地が変れば違いが生まれることを実感し、新しい畑のぶどうを扱うことで醸造における視野が広がりました。

2つ目は2012年、勝沼ワイナリーのリニューアルですね。海外でいうところのブティックワイナリー、小規模製造に完全移行しました。小さいタンクで、畑の区画ごとのぶどうを別々に仕込めるようになったことは、我々のワイン造りを大きく変えました。

―3つ目は?

工藤:北斗ヴィンヤードを開いたことです。まだ始まったばかりですが、北斗の畑での知見が我々のワイン造りの視野をさらに広げてくれるだろうと期待をしています。実際、今年リリースした「北斗シャルドネ」のファーストヴィンテージ、私の予想を超える質に仕上がりました。

グランポレールの醸造方針に関わる質問かもしれませんが、設計した通りにワインを造るやり方とぶどうの個性をワインにするやり方、どちらを重視しているのでしょうか?

 工藤:完全に後者ですね。私は「ぶどうがなりたいワインを造る」ことを基本方針にしています。ぶどうに問いかけ、まずはぶどうがなりたいようにワインを造り、その個性をよりよく表現できるように醸造方法を変えていく、というやり方ですね。

グランポレールのこれからを、工藤さんはどのように見えていますか?

 工藤:ワイン用のぶどうは、樹齢20年くらいからピークを迎えるんですね。だから、これからがとても楽しみですよ。いいぶどうが育てば、現行の商品よりレンジの高いワインが造れるかもしれませんしね。今までのグランポレールでは見えなかった何かが見えてくるかもしれないと、期待しています。

最後にお聞きしたいのですが、工藤さんがものづくりの分野で尊敬している人はいらっしゃいますか?

工藤:うーん…あまり思い浮かばないですね。まぁでも、うちの親も親戚もみんな仕事は建築関係で、ものづくり一家みたいな環境で育ったんですよ。おじさんは大工で親父は左官職人で。ワイン造りも職人芸みたいなものなので、親父の血を受け継いで今の私があるのかもしれないですね。

My favorite GRANDE POLAIRE

GRANDE POLAIRE STORY 01

工藤:私が一番深く関わっている1本。「グランポレール メリタージュ」は「カベルネ・ソーヴィニヨン」と「メルロー」のブレンドで、カベルネの力強さで骨格を作り、メルローの柔らかさで味の幅を出すことをコンセプトに造っています。その年のぶどうの品質に合わせて最適のブレンド比率を探し出すので、私の考えや想いが詰まったワインということで選ばせていただきました。

 

グランポレール メリタージュ 2018
オープン価格 

 

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※ワインについては、記事掲載時点での情報です。

 

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