日本でも人気の国のひとつ、イタリア。イタリアワインの第一人者である林茂さんとイタリア食文化の魅力をシリーズでお伝えしていきます。第1弾は、イタリア北東部に位置する「ヴェネト州」。プロセッコやソアーヴェ、アマローネ、ヴァリポリチェッラなど世界でも有名なワインを多数産出するワイン銘醸地です。林さん解説のもと「ヴェネト州」の食文化について楽しみながら学んでいきましょう。
目次
今回の話の主役はヴェネト州。
イタリア北東部の州で、北はアルプスを境にオーストリアと接し、ポー河左岸の平野部から南のアドリア海までの広い地域を有します。「ヴェネト州を語る上でヴェネツィアは外せません」と林さん。
町全体が干潟の上にあるという特異な地形から「水の都」と呼ばれるヴェネツィア。
その歴史をお話いただきました。
林「ヴェネツィアはヨーロッパ中の貴族にお金を貸していたことなどから莫大な資金を持っていました。各地から傭兵を雇うなど、1100年代から1500年代にかけて力を持っていたのです。数多くのヴィラをはじめ、プロセッコの丘陵地帯にある城などもヴェネツィア人が持っていたもの。
またヴェネチア最古のカフェといわれている『カフェ・フローリアン』に14、15世紀、ルソーなどの思想家や芸術家等の文化人が訪れていたことから、その時代の文化の中心として栄えた歴史があります。」
ヴェネツィアは貿易が盛んであり、当時から東洋やアラブから商品や人などがよく来るため情報と権力が大きかったのだそうです。
ヴェネト州の農作物と郷土料理
林さんによるともともと北イタリアは食材が豊かな場所ではなかったといいます。
林「ナポリからアイスクリームやパスタ、ピッツァが生まれたのとは違い、北イタリアは食材が昔から豊かだったわけではありません。もともと16世紀にやってきたコロンブスによりトマトや豆、ズッキーニなどが持ち込まれて、イタリアでヒットしたといった形です。
例えば、チョコレートなどは面白いですよ。ヴェネチアに持ち込まれた時はドリンクとして扱われており、トリノでヘーゼルナッツを入れることで固形のチョコレートが生まれました。ちなみにスイスにチョコレートが伝来したことでミルクを入れるといった流れも生まれたんですよ。」
そんな北イタリアの中でもヴェネト州はブドウの生産量はもちろん、農産物や酪農が盛んな地域。そんなヴェネト州の農産物でも特に有名なのが、「ラディッキオ・ディ・トレヴィーゾ」という野菜で、アンディーブ(チコリ)の元になる野菜であることからとても苦いのが特徴だそうです。
林「ラディッキオ・ディ・トレヴィーゾは冬の食べ物で、冬に収穫したものを地面に埋めてから1月、2月頃に掘り出して調理されます。中が柔らかく、芽が出ているのですがそこを食べます。焼いたりサラダにしたり、ゴルゴンゾーラと一緒に食べたり、バーニャカウダとしても食べられていますね。」
観光について
ヴェネト州にはさまざまな観光地がありますが、林さんはやはりヴェネツィアを訪れることをおすすめしたいとのこと。特に夜がおすすめなのだそうです。
林「ヴェネツィアは夜が魅力的。とてもロマンティックですからね。女性はヴェネツィア旅行だったら必ず宿泊をおすすめします。昔、私もクリスマス時期にひょんなことから家族でヴェネツィアを訪れたのですが、その時に食事した場所は子どもも正装。これはイタリアに住んでいたからこそ体験できることでしたが、普段と違う雰囲気ですごく良い思い出ですね。」
さらにヴェネツィアといえば美しい街並で有名ですが、林さんによるとさまざまな決まりがあるといいます。
林「ヴェネツィアの中心地にある家は築300、400年が当たり前。その外観を守るために厳しく管理されています。僕が以前支配人をしていたミラノのレストランも古い建物だったのですが、外装を修理しようと思うと指定された芸術家などがやってきてチェックされるんです。色までチェックが入りますし面倒ですが、これがヴェネツィアが美しく保たれている特徴でもあるでしょう。」
また、ヴェネツィアでなくヴェローナには「ロミオとジュリエット」の舞台となった「ジュリエッタの家」が残されており、毎年多くの観光客で賑わうのだとか。
林「入口の上部分に皆ハートマークの落書きなんかをしていますね。学生や子どもも多いですし、とにかくあちこちに落書きが…。じつは1年に1度壁を削って白くするんですが、あっという間に落書きだらけ。自分が書いた痕跡を残したいのか、ガムを貼付けてその上から落書きを書く人もいるほどですよ。」
興奮する気持ちもわからなくはありませんが、観光に行った際は落書きはせずに鑑賞するようにしましょう…。
ヴェネト州ワインといえば「プロセッコ」&「ソアーヴェ」!
第1回の主役はヴェネト州。
ブドウの生産量も多いですが、「D.O.C.」や「D.O.C.G.」といった高級ワインカテゴリの生産量もイタリア全州1位というイタリアきってのワイン銘醸地です。
数あるヴェネト州ワインの中でも、特に知られている「プロセッコ」と「ソアーヴェ」について林さんに解説いただきました。
■プロセッコ
林「その昔、プロセッコはもともとイースター用に飲まれるワインでした。当時ワインボトルはあったものの発泡性用はありませんでした。コルクが飛んだり爆発する恐れがあるため瓶口をひもで縛り、春まで地中に埋めておくのです。そうしてイースターの頃に掘り起こし、それを楽しむといった具合ですね。
その後、シャルマー方式が開発され工業化していき、味わいの心地よさや手軽な価格帯が受けて売上を伸ばしていったと考えられます。」
林「その昔、ヘミングウェイが足しげく通ったヴェネツィアの『ハリーズ・バー』では、白桃を絞りプロセッコで割るといったものも流行りました。今でも人気でカクテルにも使われているところが特徴です。
さらに、シャンパーニュが5気圧以上あるのに対してプロセッコは20℃で3気圧以上なので酒質が柔らかく、食中もいける味わい。こういった特徴からアメリカではなく、スイスやオーストリア、ドイツといった周辺国からヒットしていったという背景もあります。」
〈プロセッコ エクストラ ドライ ブルー ミレジマート〉をテイスティング
サッポロビールがおすすめするプロセッコ〈プロセッコ エクストラ ドライ ブルー ミレジマート〉を林さんにテイスティングいただきました。
林「ヴェネト州トレヴィ―ゾ県周辺で作られたグレラ種主体で造られたプロセッコ。
明るい輝きのある麦わら色で、野生の白い花の香りやリンゴなどの白い果実の香りを含み、新鮮なアロマと軽やかな酸、果実味のバランスが取れたワイン。食前酒から食中まで、多くの料理に合わせることのできる心地よい味わいのスプマンテ。」
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また、こちらのプロセッコもおすすめです。
〈ヴァル・ドッカ ヴァルドッビアーデネ プロセッコ スペリオーレDOCGブリュット リーヴェ・ディ・サン ピエトロ ディ バルボッザ〉
エレガントでフローラルなブーケ、調和のとれた辛口の味わいは新鮮な果実を想わせる優雅な余韻となって長く口中に広がります。
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〈ヴァル・ドッカ ヴァルドッビアーデネ プロセッコ スペリオーレDOCG エクストラ ドライ ミレジマート〉
美しい鮮やかな色合い、菜の花・柑橘系の果実を想わせるエレガントなアロマや高貴な酸味が口の中に広がります。
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■ソアーヴェ
林「ソアーヴェはヴェローナを過ぎて30分ほどの丘陵地帯で、ソアーヴェの城を中心とする広い地域で造られているワインです。中世以前、北方から南下したロンゴバルド族がこの場所を“スヴィーヴェ”と呼んだことから始まるとされています。今ではガルガーネガ種が主体となって造られており、ミネラル感と果実味のバランスが良い食事に合わせやすいワインとして親しまれていますね。」
林「ソアーヴェの特長が土壌によって個性が変わります。白い石灰質であれば、“フローラルで優しい”香り。黄色い石灰岩と堆積土壌であれば、“バナナなどのトロピカル”な香りに。鉄分を含んだ火山性の赤い砂はオレンジやレモンのような柑橘系の花の香りになり、黒い火山性の玄武岩であれば酸味とミネラル感がしっかりと感じられる仕上がりになります。ソアーヴェと一口にいってもこれだけ種類がありますから、ぜひ飲み比べてみるとその特徴を掴みやすくなるでしょう。」
〈ドミーニ ヴェネティ ソアーヴェ クラッシコ〉
サッポロビールがおすすめするソアーヴェ〈ドミーニ ヴェネティ ソアーヴェ クラッシコを林さんにテイスティングいただきました。
林「ソアーヴェ・クラッシコ地区中心部の火山性土壌を含む畑で作られたガルガーネガ種、トレッビアーノ種、シャルドネ種で造られたワイン。やや濃いめの麦わら色で、ナシや杏など白から黄色の果実、柑橘系の香りを含み、果実のしっかりとしたアロマとミネラルの味わい、余韻にわずかにアーモンドの苦みを感じさせる。果実味、酸のバランスの取れた辛口白ワイン。前菜から野菜や魚介類のパスタ料理、魚料理などに合わせることができる。」
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ヴェネト州はワイン好きなら一度は行きたい憧れの聖地!
最後に林さんにヴェネト州についてまとめていただきました。
「ヴェネト州は今の北イタリアにおいて、ブドウはもちろん、さくらんぼやりんご、桃、野菜、穀物など農産物が豊かな州。工業においても家具製造、製錬所、精密機械など盛んであることから、バランスの取れた豊かな州であるといえますね。」
また、小さなカナッペのようなおつまみ(チッケッティ)を出してお酒が飲めるベネツィア名物「バーカロ」にもよく通っていたそうで、自分もツアーを企画したものの4軒回った後は誰も夜のレストランに行きたがらなかったなど、ヴェネト州関連でもユニークなエピソードも多くあるとのこと。さすがイタリアを知り尽くした人物…と、あらためて感じることができました。
次回、林さんと古くから親交のあるイタリアンの巨匠「アクアパッツァ(ACQUA PAZZA)」の日髙良実シェフが登場。
日髙シェフが直々にここで紹介したヴェネト州のワインに合うメニューを提案してくれます。
ぜひお楽しみに!
ご紹介したワインの購入はこちら
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◇アクアパッツァ お店情報はこちら(外部サイトにリンクします)
◇YouTube
日高良実のACQUAPAZZAチャンネル(外部サイトにリンクします)
◇最新書籍
「教えて日高シェフ!最強イタリアンの教科書」(出版:世界文化社)
おうちイタリアンの伝道師による決定版。
パスタを中心に全54レシピ、初めて作るのに感激のプロの味!!
コロナ禍の中、おうち料理に目覚めた人が増加。中でも家族が喜ぶイタリアンは「おうち時間」に最適「この動画通りに作ったらいきなりプロ味!」と人気博し、登録者数が急増のYouTube「日高良実の ACQUA PAZZAチャンネル」。毎週金曜の動画アップを楽しみにしている方々の数は13万人超えとなりました。本書はそんな動画サイトで特に人気の料理から厳選。アクアパッツァのスタッフ全員で作ったレシピ書籍です。
引用:世界文化社グループ「教えて日高シェフ!最強イタリアンの教科書」
◇林茂さん プロフィール
1954年、静岡県生まれ。1978年、埼玉大学経済学部卒業。1978年、大手飲料メーカー入社。1982~1986年、1990~1999年の14年間にわたるイタリア駐在の後、2005年にコンサルティング会社『SOLOITALIA』を設立し、現在に至る。また、2009~2014年までEATALY JAPAN 株式会社代表取締役社長を務める。
*1995年、イタリアにおいて日本人として初めてソムリエの資格取得(AIS;イタリアソムリエ協会)
書籍紹介
「最新基本イタリアワイン第4版」(出版:CCCメディアハウス)
2018年、11年ぶりに「最新基本イタリアワイン」を改定した第4版。すでにイタリアワインの「定本」となっている600ページのこの本にさらに300ページを書き加え、幅広い層の人にイタリアワインを学んでもらえる本とした。具体的には、DOCやDOCGの規定の改定とイタリア各地のワイン生産地域の情報の充実、日本食とイタリアワインの相性などを加えた。
書籍一覧(外部サイトにリンクします)
※ワインについては、記事掲載時点での情報です。