「日本でも人気の国のひとつ、イタリア。イタリアワインの第一人者である林茂さんとイタリア食文化の魅力をシリーズでお伝えしていきます。第2弾は、イタリアンの巨匠「アクアパッツァ(ACQUA PAZZA)」の日髙良実シェフが登場。イタリアでの思い出やイタリア料理へのこだわり、おすすめのペアリングメニューをご紹介いただきました」
目次
イタリア料理の名店「アクアパッツァ」日髙良実シェフ ご紹介
日髙良実シェフは、イタリア料理店の名店「アクアパッツァ」のオーナーシェフ。1986年からイタリア各地のレストランで3年間研鑽を積んだ後、帰国。「リストランテ山﨑」の料理長を経て、1990年に西麻布「アクアパッツァ」の料理長となります。西麻布で10年、広尾で17年半、2018年4月に南青山へ移転。
2020年11月には30周年を迎えるなど、日本におけるイタリアンの巨匠として多くのファンに支持され続けている人物です。
・「アクアパッツァ」のお店情報はこちら(外部サイトにリンクします)
●林さんと日髙シェフ
今回、林さんになぜ「アクアパッツァ」を選んだのか、その理由をお聞きしました。
林「日髙さんと年齢が近いことやワイン関係でお世話になっていることから、シリーズの最初にお願いするに相応しい方だと考え『アクアパッツァ』を選びました。ただ、日髙さんとは長いお付き合いで声をかけやすかったという部分もありますね。
ちなみに私がイタリアから帰ってきた時、彼に『カンパーニア州のチェターラという小さな港町に、若いいとこが経営するアクアパッツァというお店がある』と軽く伝えたら、真剣に“それどこですか?”と聞かれたことが印象的でしたね。そのあと“私の方が早くアクアパッツァという名で店を開けました”といわれました。」
日髙「早いと言ったところでアクアパッツァは、もともとイタリアの郷土料理ですよね…。私が林さんと出会ったのは、ちょうど『リストランテ山﨑』の料理長をしている頃でした。林さんが私より年齢が3つくらい上なのですが、すでに高名で年齢の差以上に権威と畏敬があったことを思い出します。イタリアワインの神様のような方ですし、よく来られて本当に緊張していました。」
林「日髙さんと出会った後、『アクアパッツァ』では、本当にいろいろなイベントを開催させてもらいました。ワインに合わせた料理などをお願いしても、問題なく対応いただけるのはとても嬉しいです。」
日髙「林さんには全幅の信頼を置いてまして、林さんの執筆された本は私たちスタッフのバイブルになっているほどです。」
イタリアを知り尽くす林さんが信頼する、「アクアパッツァ」の日髙シェフ。
一体、どのような方なのでしょうか。
イタリアでの思い出やお店の特徴、そして今お店にとって重要な宣伝ツールとなっている「YouTube」への投稿への思いなどをうかがいました。
イタリアの郷土料理との出会い
日髙シェフが本場でイタリア料理を学ぶために渡伊したのは、1986年。
北から南まで、イタリア各地のレストランで働いてきたといいます。
日髙「私がイタリアにいた期間は3年間。1年半はフィレンツェの『エノテーカ・ピンキオーリ』、『グアルティエーロ・マルケージ』で過ごし、残りの1年半はイタリア各地のレストランを紹介してもらうなどして計14軒のレストランを渡り歩きました。
1、2番目に修業した『エノテーカ・ピンキオーリ』、『グアルティエーロ・マルケージ』はイタリアでも名立たる名店なのですが、志向がフランス料理の影響を受けていたため、ここで学び続けていても日本人として“イタリア料理を誤解して帰ってきてしまう”と思い、とても悩みました。
そんな時、『グアルティエーロ・マルケージ』の紹介でよくしてもらった3番目の働き先だった『ダル・ペスカトーレ』のオーナー、アントニオ・サンティーニさんにこう言われたんです。“日本人がイタリア料理を学ぶのであれば、地方料理を学ぶべきだ”と。
なんとアントニオさんはガイドブックを頼りに、“日本からきたブラボーなヤツがいるからおたくで預かってくれないか?”と、わざわざな地方のさまざまなレストランに電話をかけてくれたんです。
今でこそ『ダル・ペスカトーレ』は20数年間連続で三つ星を獲得するレストランとして知られていますが、当時は一つ星。その状態で、“1、2週間の間、給料は出さなくていいが、まかないと寝泊まりする場所を与えてくれないか”と各地のレストランに頼んでくれたところ、5店舗紹介してもらえたんです。
この5店舗を順番に回った時に気づいたのは、“地方料理は面白い。こういったものを勉強したい!”と、自分の中であらためて確認できました。人との絆、恩義を強く感じましたし、本当にアントニオさんはイタリアの大恩人ですね。」
その後、日高シェフが自分自身で手紙を出したり、食事をしたレストランに直接働かせてほしい懇願するなど、精力的に地方料理を求めた歩いたといいます。
ちなみに、イタリアのレストランで働く際、『エノテーカ・ピンキオーリ』、『グアルティエーロ・マルケージ』での経歴が“箔”となったそうで、そのおかげで多くのレストランで働けたのだとか。
「アクアパッツァ」の料理は、日髙シェフが体験したイタリアでの経験が礎となっていることがよくわかるエピソードです。
アクアパッツァとの出会い
店名にもなっている「アクアパッツァ」。日髙シェフは、なぜこの料理名を店名として使用しているのでしょうか。
日髙「イタリアにいた当時、日本の情報を知るために日本の料理専門誌を見ていました。毎月イタリア特集がされていたのですが、それに掲載する予定の記事を掲載前にイタリア在住の料理専門誌の編集者から見せてもらう機会があり、そこで『アクアパッツァ』という名を初めて目にしたんです。“南イタリアの『ドン・アルフォンソ』で、アクアパッツァという料理が出てくる”と知り、早速知人とそのお店に行ってみました。
実は当時イタリアのグルメガイドブックには北イタリアのお店ばかりが掲載されており、北の人に“南の料理は勉強する必要はない”とさえ言われていたんです。そのため、私がイタリアの南側を訪れたのは『ドン・アルフォンソ』が初めてでした。
最初、記事で見た写真とは違い切り身でインパクトが無かったのですが、料理やナポリ人特有の雰囲気などが魅力的で“ここで働かせてほしい”と懇願。
結果、『ドン・アルフォンソ』でも働くことになったんです。厨房では、アクアパッツァの原型を見せてもらいました。
鍋ひとつの中でいろいろな具材が変化していくのに、最後にはとても美しい料理として完成します。素材から旨みを引き出す手法の素晴らしさはもちろん、オリーブオイルにトマト、ハーブを使っていることで、“これぞイタリアカラー!”と感じたんです。“アクアパッツァのような郷土料理にもっと出会いたい”と思ったことが、南イタリアのレストランを巡るきっかけになりました。」
アクアパッツァとの出会いに感銘を受けた日髙シェフは、帰国後、東京・青山「リストランテ山﨑」の料理長に就任。のちに自身がオーナーシェフとなる別のレストランを始める際、迷わずその時の感動を忘れることなく「アクアパッツァ」という店名をつけたそうです。
アクアパッツァのこだわり
「アクアパッツァ」では、どのようなこだわりのもとイタリア料理が提供されているのか、日髙シェフにお聞きしました。
日髙「オープン当初から、“日本の食材をいかしたイタリア料理”を心がけています。イタリア各地を行くにしたがってさまざまな料理・食材が存在しているため、“イタリア料理”をひとつにくくることはできません。その中でも、私は食材の真の良さをシンプルに生かすことを大切にしています。
例えば、イタリアの地方のレストランなど自分の畑で収穫したじゃがいもを茹でただけということがありますが、本当い美味しい。日本は四季折々に素晴らしい食材がありますよね。食材は日本の素晴らしい素材。調理法はイタリア料理のあり方を取り入れるといったこだわりで調理しています。」
イタリアワインの魅力
長くイタリア料理に携わっている日髙シェフに、イタリアワインの魅力をお聞きしました。
日髙「イタリアにいた当時、イタリア人の若い方はワインをほとんど飲まなかった時代でした。その土地でつくられた良いワインを出そうといった形で、余ったワインをいただくことがありましたが、その時はまだ漠然と“美味しい”と感じていた程度でした。なのでイタリアワインに面白みを感じたのは、じつはここ10年ほどです。バリエーションの豊富さや品質の高さなど、本当にイタリアワインは幅広い魅力を持っているワインだと思います。」
YouTubeでの活躍について
現在、日髙シェフは動画投稿サイト「YouTube」にて、「日高良実のACQUAPAZZAチャンネル」を配信中。今、その効果を実感しているといいます。
日髙「今、『アクアパッツァ』の公式YouTubeの視聴者は8割男性です。コロナ禍による自粛期間中に私が出演したレシピ動画を見ていただき、“作ってから来ました”とか“レシピがわかりやすいしとても美味しい”など、直接お客さまから言われるようになりました。
広尾店からの移転の流れからコロナの影響で、正直『アクアパッツァ』も厳しい状況に陥りました。“30周年まで、もたなかったか…”と思ったほどです。
そんな時に人気ユーチューバーから声をかけられYouTubeに出演したんです。
最初は、“YouTubeってどうなの?”という態度を取っていたのですが、なんとその動画が170万回再生超えに。起死回生といった形になり、YouTubeを観てくれている方に彼の動画で謝りました…。それも動画でご確認いただけます。この影響で自分でもチャンネルを作り、配信していかなければいけないと感じました。
今、ヘビーユーザーという方たちではないですがイタリアンに興味を持ち、今まで自宅でやっていたお祝いを『アクアパッツァ』でやるといった方が増えています。新規ユーザーをつくれるツールでもありますし、この状況下の中のYouTubeとの出会いは偶然でもあり必然でもあったのかな、と感じていますね。」
「アクアパッツァ」が提案するイタリアワインのペアリング
今回「アクアパッツァ」のお料理と合わせるのは、ヴェネト州を代表するワイン「プロセッコ」と「ソアーヴェ」。
今回は、こちらの2本が登場します。
・〈プロセッコ エクストラ ドライ ブルー ミレジマート〉
ヴェネト州トレヴィ―ゾ県周辺で作られたグレーラ種主体で造られたプロセッコ。
明るい輝きのある麦わら色で、野生の白い花の香りやリンゴなどの白い果実の香りを含み、
新鮮なアロマと軽やかな酸、果実味のバランスが取れたワイン。
食前酒から食中まで、多くの料理に合わせることのできる心地よい味わいのスプマンテ。
購入はこちらから(外部サイトにリンクします)
・〈ドミーニ ヴェネティ ソアーヴェ クラッシコ〉
ソアーヴェ・クラッシコ地区中心部の火山性土壌を含む畑で作られたガルガーネガ種、トレッビアーノ種、シャルドネ種で造られたワインで造られたワイン。やや濃いめの麦わら色で、ナシや杏など白から黄色の果実、柑橘系の香りを含み、果実のしっかりとしたアロマとミネラルの味わい、余韻にわずかにアーモンドの苦みを感じさせる。果実味、酸のバランスの取れた辛口白ワイン。
前菜から野菜や魚介類のパスタ料理、魚料理などに合わせることができる。
購入はこちらから(外部サイトにリンクします)
「アクアパッツァ」の料理は日髙シェフが解説。
林さんのペアリングコメントともにお楽しみください。
●「金目鯛のカルパッチョ」×〈プロセッコ エクストラ ドライ ブルー ミレジマート〉
日髙「こちらは金目鯛を使ったカルパッチョですが、特徴はあさりのソースを使用しているところ。かれこれ25年前からお出ししているソースで、小さなあさりを水から寸胴で煮詰めて出てきたジュースをさらに煮詰めた後、そのエキスにゆずと米油を合わせて作っています。魚の持ち味をしっかりと引き出す特別なソースです。」
林「海の深いところに棲む金目鯛は、身の独特のうまみと甘味が特徴です。
こちらのカルパッチョには、みょうがなどさまざまな薬味が入っているので風味や食感も楽しめますね。
カルパッチョのうまみを〈プロセッコ エクストラ ドライ ブルー ミレジマート〉の酸味と果実味がぬぐい、さらにうまみをより引き出します。シャンパーニュのような強いガスではなく、やわらかい酸とガス、そしてほのかに果実味のあるプロセッコは非常によい相性といえるのではないでしょうか。」
●「真鯛のアクアパッツァ×〈ドミーニ ヴェネティ ソアーヴェ クラッシコ〉」
日髙「こちらは真鯛を使ったアクアパッツァです。魚をしっかりと焼いてから水で煮出すだけで、ワインやお出汁などは入れません。魚のうまみがしっかりとしていると乳化しやすく、素材のポテンシャルが仕上がりに大きな影響を与えます。
トマトは近頃人気のオスミックトマトで、セミドライトマトに仕立てているのでさらに甘味が強いもの。そして、あさり、オリーブオイル、パセリといったシンプルな構成で仕上げています。アクアパッツァは、魚によって味もかわりますし、素材が全て。当店の看板料理ですので、素材選びにも徹底してこだわっています。」
林「アクアパッツァ自体は気取った料理ではない、とてもシンプルな料理。新鮮な魚のうまみに味付けも少しだけという、素材が命といったものです。
オリーブオイルとトマトを使用しているところが南イタリアらしさを感じさせます。こういった料理はうまみとミネラルを感じる白ワインがいいでしょう。ソアーヴェはガルガネガという品種から造られる白ワインで、〈ドミーニ ヴェネティ ソアーヴェ クラッシコ〉の外観からも、うまみがありミネラルを感じさせる印象がわかります。
真鯛の塩味とワインのミネラルとの絶妙なバランス。酸味がオリーブオイルの後味など全体をぬぐってくれるため、“もう一口食べよう”といった気持ちにさせてくれるペアリングです。」
レシピを公開中!
詳しくはAmazon特集ページにて(外部サイトにリンクします)
フランクにイタリア料理とイタリアワインを楽しもう!
イタリア各地で修行してきた日髙シェフが生み出すイタリア料理は、現地の味わいを彷彿とさせながらも、より洗練されたものに仕上げられています。
「アクアパッツァ」は、ここでしか味わえない独自のイタリア料理を楽しめる正真正銘、日本を代表するイタリア料理店のひとつです。
「イタリア料理は家庭にも浸透してきました。そんな中、レストランでのイタリア料理の役割は、大切な人たちと一緒にお酒と料理を楽しんでもらうことだと思っています。今、なかなかそれが叶わない状況ですが、だからこそ安心して飲食できる時が来たら、『アクアパッツァ』はじめ、イタリアレストランであらためのその楽しさを味わってほしいと思います。」と日髙シェフ。
レストランへの訪問はもちろん、日髙シェフの動画・書籍や林さんの書籍なども参考にしながら、自宅でイタリア旅行気分を想定したカジュアルなワインペアリングに挑戦してはいかがでしょうか。
今回ご紹介した商品の購入はこちら!
ご紹介した、プロセッコ エクストラ ドライ ブルー ミレジマートとドミーニ ヴェネティ ソアーヴェ クラッシコの購入はこちらから(外部サイトにリンクします)
◇リストランテ アクアパッツァ
◇お店情報はこちら(外部サイトにリンクします)
◇YouTube日高良実のACQUAPAZZAチャンネル(外部サイトにリンクします)
◇最新書籍「教えて日高シェフ!最強イタリアンの教科書」(世界文化社出版)
おうちイタリアンの伝道師による決定版。
パスタを中心に全54レシピ、初めて作るのに感激のプロの味!!
コロナ禍の中、おうち料理に目覚めた人が増加。中でも家族が喜ぶイタリアンは「おうち時間」に最適「この動画通りに作ったらいきなりプロ味!」と人気博し、登録者数が急増のYouTube「日高良実の ACQUA PAZZAチャンネル」。毎週金曜の動画アップを楽しみにしている方々の数は14万人超えとなりました。本書はそんな動画サイトで特に人気の料理から厳選。アクアパッツァのスタッフ全員で作ったレシピ書籍です。
引用:世界文化社グループ.「教えて日高シェフ!最強イタリアンの教科書」
◇ソロイタリア 林 茂さん 著書
「最新基本イタリアワイン第4版」(CCCメディアハウス)
第3版まで累計29,000部を発行したイタリアワインの定番書『基本イタリアワイン』11年ぶりの改訂版。第6部のデータ編を最新情報にアップデートするのはもちろん、日本料理とイタリアワインの相性など興味深い新情報も増補。旧版の読者はもちろん、最近いずれも増加傾向といわれるイタリア料理店やワイン輸入業者、ソムリエ試験受験者必携の書。
書籍一覧(外部サイトにリンクします)
※ワインについては、記事掲載時点での情報です。